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運命の人  作者: まる。
第5章 触手
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第12話~一つの影~

「んー、じゃあ時間ももったいないし、一緒に入ろっか」


 叶子の返事も待たずして、ジャックはそう言うなり胸の前で両腕をクロスさせ、黒いシャツと一緒に中に着ていた白いTシャツをも一気に脱ぎ去った。服を着ている時には想像もつかない様な厚い胸板と割れた腹筋。腕は少し曲げるだけでも筋肉が隆起し、男らしい肉体が惜しげもなくさらされた。

 久しぶりに見た彼の裸体は一年前よりも更に鍛え上げられている。何処を見ていいのか目のやり場に困り、叶子は思わず顔を逸らしてしまった。


「そ、そそそ、そんなのダメ!」

「? あー、魔法が解けちゃったな」


 彼女の変化に気付いたジャックは、少し残念そうな表情を浮かべている。叶子の肩を抱き寄せると、頭のてっぺんにキスを落とした。


「魔法?」


 温かい胸元に寄りかかり、彼を見上げながら首を傾げた。


「うん。今の恥ずかしがり屋な君も凄くかわいいけど、さっきまでの君はまるで別人だったよ。すっごくセクシーで、思わずゾクゾクしちゃった。本当、魔法がかかってたみたいだったな」

「もっ……、そんな事言わないで」


 そう言われると、途端に顔を合わせることができなくなり両手で顔を塞いだ。気持ちを落ち着かせながら記憶を辿っていくと、あまりの恥ずかしさに顔から火が出そうになる。自分がやった事の筈なのに、あの時はまるで第三者と彼が絡み合っているのを離れて見ていた様な、そんな錯覚に陥っていた。


「?」


 ふと、抱き寄せられていた肩からぬくもりが消え、彼が少し距離を取ったのを感じた。


「ぃーよっと」

「きゃあっ!」


 叶子が起き上がった時に、元通りにしていたはずのキャミソールと下着をスポンっと一気に剥がされてしまう。慌てて自分の腕を抱きしめるようにして胸元を隠した。

 ショーツ一枚だけになった身体を少しでも隠すために、膝を立てて足を斜めに組み、この期に及んで「何するの!?」とでも言いた気な表情で彼を睨みつける。何をしようがジャックは動じることなく、悪びれるどころか逆に誉めてくれと言わんばかりに胸を張った。


「ほら、これで脱ぐ時間が短縮されたでしょ? 五分上げるから行っといで」

「ご、五分!? 私は十分頂戴って言ったのよ? た、たった、これだけを脱ぐのに五分も掛かんないじゃない。全然短縮されてないからっ」

「んー、……んじゃあ、それも脱がせよっか?」


 ジャックは意地が悪そうな顔でチラッと下半身を見下ろした。


「っ!!」

「でも、それも脱がしちゃったらきっとシャワー所じゃないな。流石の僕でも制御出来ない」


 そう言って、隣で小さくなっている彼女の背後に手を突き、身体をじわりと寄せる。彼の胸板に彼女の肩が触れ、頬にかかる吐息に身を捩ると、カチャカチャと言う音と共に彼の利き手が自身のベルトを外しに掛かった。


「っ……!? いいですっ! 結構です!!」


 頭がちぎれて飛んで行ってしまいそうな位に、ブンブンと思いっ切り頭を振り回している。そんな叶子を見ていると、ジャックの口の端がじわりと上がり、今にも噴き出してしまいそうになるのを必死で堪えていた。


「んじゃあ、行っといで。五分過ぎたら僕も入るからね」

「え? きゃあ! 行ってきます!!」


 ベッドの上のシーツを手繰り寄せると直ぐ様それを身体に巻きつけ、ズルズルと引きずりながらベッドルームにある扉を開ける。まるでヴァージンロードを歩く花嫁の様に、叶子はバスルームへと消えていった。


「プッ、今更……。どんだけ恥ずかしがり屋なんだか」


 半ば呆れてはいるもののそんな彼女がとてもかわいく、今すぐにでもバスルームに突入してぎゅっと抱きしめたくなる。勿論、そんな事をしようもんなら、何を言われるかわからないし、もしかしたらこの後のお楽しみも帳消しになるかもしれない。

 それだけは避けたいと気を引き締める為にパンっと一度両頬を叩くと、そのまま大きなベッドの上でゴロンっと寝転んだ。


「――花嫁、か」


 目をそっと閉じれば、純白のドレスに身を包んだ叶子が目に浮かんだ。

 背中が大胆に開いたドレスに綺麗な肩甲骨がくっきりと浮き出ていて、その小さな手にはしっかりとブーケが握り締められている。名前を呼ぶと、嬉しそうに笑顔を見せている叶子を想像した。


「カナ、きっと凄く似合うんだろうなぁ」


 彼女のウェディングドレス姿を見ることが叶わない今のこの現実に、ジャックはたまらず奥歯を噛み締めた。



 ◇◆◇


 バスルームに入ると、引きずっていたシーツを手繰り寄せた。四隅を合わせて丁寧にたたみながら、すぐ側にあるシャワールームを横目で見る。そこには、バスタブとは別に透明のガラスで囲われたシャワールームがあった。自分からシャワーを使わせてと志願したものの、ここのシャワールームはいつになっても好きになれない。ただでさえ、だだっ広くて何処かに誰か潜んでるんじゃないかと気が気でないのに、透明で外から丸見えなのがどうにも落ち着かない。


「まぁ、これも慣れなきゃ、ね」


 ため息を一つつくとガラスの箱に入り、コックを捻った。






 彼に入って来られる前に早く出なければと、叶子は急いでシャワーを浴びた。もくもくと上がる湯気の中、シャワールームの扉を少し開けると手探りで洗面台に置いていたバスタオルに手を伸ばす。白くて細い彼女の腕は、まるでピアノの鍵盤を弾くように右往左往している。そのうちに、トンっと差し出されたようにバスタオルに手が触れ、「あ、ありがとう」と、反射的に声を掛けると「どういたしまして」と言う声が聞こえた。

 バスタオルを引き寄せ、顔についた水滴を拭き取ろうと両手でバスタオルを押し当てる。ふと、何処からか感じる一つの視線と、先ほどの声を結びつけた。


「……っ!? もっ! ジャ! ……ック――??」


 もわもわと上がる湯気の向こうには、洗面台に腰をもたげながら腕を組み、こちらを向いている一つの影があった。

 少しウェーブした黒髪に、浅黒い肌、キリッとした眉と大きな目。口の周りにはうっすらと髭を生やしているブランドンが、透明なシャワールームでバスタオルを握り締めた叶子をジッと見つめていた。



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