第八夜
第八夜、更新しました♪
よろしくお願いします♪
「なんでテメエが此処に居る……?」
目の前の玄い女を睨みつけながら問いかける伐。
その言葉に女は腰を上げ、彼に相対する。
その所作だけでプレッシャーが数倍に跳ね上がった。
「なるほど、良い‘勘’と‘観’だ。十二分に場数は踏んでいるな」
質問に答えず、独語する玄い女、北丘めぐみ。
しかし、伐は言葉を続けられない。
相手との距離は五メートルもない。
一挙投足で相手に届く。
ゆえに、伐は動けない。
迂闊に動けば、首が胴から離れて転がりかねない。
そんなイメージが頭から離れない。
と、プレッシャーが雲散無消する。
「すまないね。君がどれほどのものか見てみたかったものでね」
「……」
肩にのし掛かっていた圧力が消えてなお、伐の眼からは険が取れない。
「やれやれ、余裕のないことだ。質問に答えておくとしよう」
言いながら椅子に腰を落とすめぐみ。
対して伐は、軽く身構えたままだ。
「この学園に赴任してきたのは昨日だよ。まあ、君は登校していなかったようだしね。知らなくても無理はない。で、目的だが……」
二人の眼が鋭く細まり、視線が絡まり合う。
一方は射殺さんばかりに。
もう一方は楽しげに。
お互いを見つめる。
「……クリスティーナ=ウェストロード」
その名に、伐の髪が僅かに揺れる。
「失踪した彼女の捜索。その情報収集だな」
「……失踪だと? 休学の間違いじゃないのか?」
伐は思わず聞き返してしまった。
その言葉に、めぐみが口の端をつり上げた。
「……確かに休学の届けは、彼女の兄から提出されているようだがな」
「……」
その言葉に眉を顰める。
両親では無く、兄からの届け出。
拉致監禁されたという彼女の話との噛み合わせが良くない。
そんな彼の様子を見て、めぐみは顎に手をやる。
「……フム。君も多くは判っていないようだな」
「……そういうあんたはどうなんだ? どうせ、どこに居るかは判っているんだろ?」
軽く笑いながら放たれた伐の言葉に、笑みを浮かべてみせるめぐみ。
「ちっ、やっぱりな。声を掛けてきた時点でおかしいと思ったぜ……」
彼女の表情を見て、顔を歪める。
「すまんね、これも仕事のうちだ。で? どうする? 彼女を引き渡すかい? ‘ノラ猫’君?」
「……」
視線が絡み合う。それが続いたのは、数秒ではあったが、伐には数分にも感じられた。
が、先に視線を外したのはめぐみだった。
「……‘ノラ猫’に依頼したい」
「……なに?」
めぐみの言葉に、虚を突かれる伐。
しかし、彼女は構わず続ける。
「内容は、彼女、クリスティーナの保護と私の手伝いだ」
「……は?」
さらに告げられた内容に、思わず呆ける。
「何言って……」
「はっきり言えば、手が足りん。正直、‘猫の手も借りたい’位だ。その位、根が深い。無論、断ってくれても構わないが、彼女は引き渡して貰う。当然、口止め料も払おう。どうするかね?」
「…………」
めぐみの言葉に返事が出来ない伐。
彼には、厄介事に首を突っ込む趣味は無い。
確かに抱くには良い女だ。
良い身体をしているし、テクもある。
しかし、問題も多い。正直、面倒な女でもある。
そういうのには近づかないのが、彼の常だった。
しかし。
『お帰りなさい、伐』
『行ってらっしゃい、伐』
不意に声が聞こえた気がした。
そして、彼女の笑顔と泣き顔が、彼の脳裏をかすめる。
それで、心が決まった。
「いいぜ、受けてやるよ。だが、俺は安く無いぜ?」
挑戦的な笑みとともに放たれた言葉を受け、めぐみも笑みを深くした。
日も傾き始めた頃、猫の住処に、主が帰還する。
生活空間としているテナントビルの鍵を開け、扉を潜る。
「あ、お帰り、伐」
言いながら小走りに玄関にやってくる金髪の少女。
前とは違い、伐のジーンズを履き、Tシャツを着ている。
もっとも、下着がないので、上も下も直に身につけているのだが。
そして、笑顔を浮かべる顔には、頬を濡らした痕があった。
「ん」
そんな彼女に、くわえた煙草を揺らしながら返す伐。
クリスは、一瞬呆気にとられてから、また笑顔になる。
その笑顔に、ノラ猫は眼を細めた。
第八夜、いかがでしたでしょうか?
切り所の関係で短くなりましたが、ご容赦を。
え? エロスが無い?
まあ、毎度毎度、盛ってるシーンばかりじゃアレなんで(笑)
それでは、次回もよろしくお願いしますね♪