第七夜
第七夜、更新しました。
残念ながら、今回はエロスはないです(笑)
澄んだ青空に、一筋の紫煙が、海中に揺れる海藻のようにたゆたっている。
その根っこを作り出している少年は、文月学園の新校舎屋上にて、昼寝を敢行中だ。
コンクリに体温を奪われないよう、旧校舎で見つけてきた板切れを敷き布団代わりに微睡む。
丸二日以上におよぶ、連続行為は、少年の体力も確実に削り取っていた。
「いよう伐♪」
不意に声をかけられ目を開ける。
するとそこには、薄茶色の髪を無造作になでつけた軽薄そうな少年が立っていた。
「洋介か。なんか用か?」
少しだけ不機嫌そうな声を出す。
しかし少年、青島洋介は気にすることなく近づいていく。
そして、懐から封筒を取り出し、伐に向けて差し出す。
「この間のモデル料と、売り上げの一部だよ」
「ああ、あれか。どのぐらいになったんだ?」
封筒を受け取りながら重さを確かめる伐。
ほんの気まぐれで、女装写真のモデルを引き受けたのだが、学園内での秘密の販売と言うことで、あまり期待してはいなかったのだが。
「……随分入ってるな。そんなに売れたのか?」
中身を確認し、思わず呟く。
「それが一番人気でさあ。もう飛ぶように売れちゃってな」
「へ、こいつはいい。これだけ入るんなら、またやってやるよ」
思わぬ収入に、珍しく機嫌を良くする伐。
媚びを売るような仕草や表情を演ずるのも、これだけの収入になるのなら、苦になどならない。
「頼むよ~。顧客の開拓が進めば、収益も安定するしさ」
「だな。……そういや洋介、少し情報が欲しいんだが」
思い出したかのように洋介へ告げる伐。
「情報? 別に構わないけどなんの情報だい? 女生徒のデータなら大抵揃っているけど」
胸を張って答える洋介。
その様子に、伐は気にするでもなく口を開く。
「二年生女子の情報が欲しい。クリスティーナ=ウエストロードって名前だ。確か二年三組だったはずだ」
「あー、あの先輩か。先輩なら、すぐに分かるよ」
言うが早いか懐から手帳を取り出して広げ始める康太。
なれた手つきでページをめくり、目的の女生徒を見つけて手を止める。
「こほん。『クリスティーナ=ウエストロード、17歳。二年B三組のクラス代表者。身長168、体重は秘密。バスト93cmのFカップ。日本生まれのアメリカ人で国外へ出たことがない。茶道部、華道部、日舞研究会、新体操部に所属。特に新体操はオリンピック強化選手候補になるほどで‘銀翼の天使’とまで呼ばれている。一学期の終わりのリンクネット代表戦で決勝まで進んだけど敗退。夏休み以降、休学している模様』。こんなところかなあ。ほかにもっと知りたいなら調べておくけど?」
「……頼む」
洋介の説明にうなずく伐。
そして、さらなる調査を依頼する。
「りょーかいりょーかい。この洋介さんに任せときなって!」
「頼んだ……くぁ……だめだ、本格的に眠い。保健室でも行くか」
言いながら身を起こし、立ち上がる伐。
軽く体を伸ばしながら歩き出す。
「じゃ頼んだぜ、洋介。依頼料として、次の撮影のモデル料はサービスしてやる」
そう言って、ぞんざいに手を振りながら屋上入り口へ向かった。
屋内へ入ると同時に、携帯灰皿を取り出し、くわえていた煙草を消して、灰皿に押し込む。
「……きょうび煙草も高ぇからな。あまり無駄にゃあしたくないが」
己に言い聞かせるように呟く伐。
ズボンのポケットに手を突っ込み、だるそうに階段を下りていく。
『えへへ~♪ シンくんだ~い好き♪』
『うぐぐぐ……』
『だ、ダメだよ琴代ちゃん! 慎吾くんが潰れちゃうよっ?!』
「……騒がしい学校だな。バカしかいないんじゃないのか?」
階段を下りているだけなのに、途切れることなく聞こえてくるバカ騒ぎを聞き流しながら嘆息する伐。
一階まで降りて、保健室へ直行する。
「失礼します、具合が悪いので、休ませて下さい……」
声音を使って、しおらしく振る舞いながら、養護教諭の背に声をかける。
堂々と寝ようとすると、生徒指導室からマフィアがかちこんできて捕まるからだ。
「ああ、ベッドは空いているから、好きな方を使いたまえ。なんなら女子を見繕ってねんごろになっても構わんぞ? ‘ノラ猫’くん」
「!?」
聞き覚えのある声に身構える伐。
それに合わせるように養護教諭が椅子に座ったまま伐の方へ向く。
シャギーの入った黒髪のボブカットは、角度によって深緑の色合いを見せる。
白衣の下には、胸元が大きく開いた、黒いシャツと黒のタイトミニを履き、そこからのぞく白い足を組み直す。
大きな黒瞳の眼を細め、くわえた禁煙パイプを揺らしながら笑うその女は、あの夜北丘と名乗った女だった。
第七夜、いかがでしたでしょうか?
玄を纏う女と再会した伐。
一体どうなるんでしょう?
次回もよろしくお願いしますね♪