第六夜
第六夜、更新しました。
読んで下さるみなさんに、楽しんでいただければ幸いです♪
暗い部屋の中。
二匹の猫が寄り添うようにソファでくつろぐ。
だらしなくソファにもたれ掛かり、首を預けながら煙草を吸う少年、黒須伐。
そして、その太ももをマクラ代わりに微睡む金髪の少女、クリスティーナ=ウェストロード。
結局あれからもう一回戦始まったのだが、その最中、体力を使い果たしたクリスが、伐を跨いだまま、船を漕ぎ始め、無理矢理寝かしつけた。
丸二日以上ヤりっぱなしだったのだから仕方がないと言えるだろう。
とはいえ、こんなことを続けていて良いわけもない。
引きこもって盛ってるだけの退廃的な生活が出来るほど懐に余裕はない。
学園にも顔を出さねば、暑苦しい生活指導担当が、ここまで見に来かねない。
「……めんどくせえ」
ぽつりと呟いた言葉が、虚空に舞い散り、融けて無くなる。
「……どうしたの? 伐」
ふと、下から声をかけられる。
顔を軽くあげつつ、視線を下へ転ずると、うっすらと目を開けた少女が見上げてくる。
「……なんでも無えよ」
それだけ言って、ふたたび視線を上へ。
「……学園のことでも考えてた? そういえば、伐は受験しない人? 三年のこの時期にバイトしたり、丸二日はヤり尽くしだったり……」
聞こえてきた声に、上を見たまま眉をひそめる伐。
「……何の話だ?」
「え? 伐、三年生でしょ? 私、二年の三組だし……」
クリスの言葉を聞いて、胡乱げに彼女を見下ろす。
その視線の先の少女は、目をしばたかせて彼を見上げていた。
「…………アホか。俺は一年だ。一年三組」
「え?!」
伐に言われて、声を挙げるクリス。
慌てて身を起こし、両手を着きながらソファに座り込んで伐をみる。
「……冗談……だよね?」
おずおずと訊ねる金髪の少女。
しかし、伐は答えるのもバカらしいとばかりに無視を決め込む。
沈黙が二人を包み、それこそが伐の答えだと感じ取れた。
「……と、年上だと思ってた……。落ち着いてて、頼りがいありそうだったし」
「……知るか」
がっくりと肩を落とすクリス。
「思いっきり甘えてた……死にそうなくらい恥ずかしい……」
そのままソファへ突っ伏すクリス。
伐はそれを感じながら紫煙を細く吐き出した。
少し間があり、クリスがぽつりと呟く。
「……でも、良いの? 学園サボってるとあの人がうるさいでしょ?」
「……あの人? ああ……」
クリスの言葉に反応し、煙草を離しながら顔を上げる。
すると、彼女もこちらを見上げていた。
「「ドン」」
二人の口から飛び出たのは、央華学園の名物教師、美術担当兼生徒指導の田所教諭のあだ名だ。
普段から紫のスーツジャケットを羽織り、髪をリーゼントのようにセットしたコワモテの教師。愛用のサングラスを掛け、肩で風を切って歩く姿はヤクザかマフィアのごとき迫力であり、それらを揶揄してつけられたらしい。
「ぷふっ」
口元に手を当てながら吹き出してしまうクリス。
「クックック」
聞こえた声に顔をあげてみれば、伐も顔を手で覆いながら肩を震わせつつ声を漏らしている。
「い、一年でもドンって呼ばれてるんだ」
「あの容姿じゃあな。案外と三年からも同じように言われてるんじゃないか?」
「そうかも……」
それがツボに入ったのか、二人はしばらくの間笑い続けた。
ひとしきり笑った二人は、夜が明けるまでの間、軽く学園のことを話した。
楽しそうに話すクリスに、伐はめんどくさそうに応じるだけだが、無視しない辺り満更でもないようだった。
朝も良い時間になり、伐は面倒そうに準備を始める。
「……伐、学園に行くの?」
少し寂しそうなクリスの声。
「……田所の強制訪問食らうわけにはいかないからな」
煙草をくわえながら支度を続ける伐。
それを無言で見つめる金髪の少女。
程なく支度を終えたノラ猫は、玄関へ向かう。
「いってらっしゃい、伐」
かけられた声に振り向くと、後ろに着いてきていた少女がはにかんでみせた。
「…………」
「……ん?」
己を見つめてくる伐に、小首を傾げるクリス。
と、その唇を奪われた。
それは、ついばむような軽いキス。
その一瞬だけを残して、伐はビルを出た。
「黒須! てめえ昨日はどうした!」
少し遅めに学園に着いた伐は、早速、田所教諭に捕まった。
「……だるかったんで休みました」
堂々と嘘を返す伐と田所の視線が絡み合う。
が、先に視線を外したのは田所だった。
「……ハァ。お前の事情は承知しているつもりだが、程々にしろや」
「ハイハイ」
「ハイは一度にしとけ」
「……面倒くせえ」
呟く伐に、田所が柳眉を逆立てようとする。
が、唐突に何かが割れる音が学園に響きわたった。
「んだっ?! 今の音はっ!? 黒須、少し待っていろ! 逃げんなよ!」
言うが早いか走り出す田所。
その姿が見えなくなるのと同時に、伐は歩き出す。
「……待つわけねーだろ。めんどくせえ」
そう呟く彼の耳にも、西村と生徒達の騒がしいやりとりが聞こえてきた。
『何事だっ!!』
『げえぇっ?! 関羽……じゃなくて、ドン!?』
『沢井っ! また、お前かっ! 何度も問題起こしやがって』
『ち、違います! 太一の奴が……』
『バカだな秋人。だからやめておけと言ったろう』
『おのれ太一! 貴様最初っから俺にすべて擦り付けるつもりだったなっ!?』
『面倒だ、お前等二人とも生徒指導室に連行する! 覚悟しとけよ』
『チっ! 逃げるぞ秋人!』
『太一のせいなのに何で俺まで〜〜っ!?』
『待たねーか!! てめえら!!』
「……バカばっかだな、この学園」
言いながら伐は、屋上へ続く階段へと足を向けた。
第六夜、いかがでしたでしょうか?
ついに学園へ!
どうなりますやら。
次回もよろしくお願いします♪