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第弐夜

 第弐夜です。

 よろしくお願いします♪

 夜の裏路地。

 バイトを終え、一人歩く少年。

 本来ならもう少し後が終業時間なのだが、客が少ないことを理由に揚がらせてもらっていた。

 昼間ですら日の当たらぬその道には、前日の雨の跡がそこかしこに残っており、時折、彼の足音に水音が混じることもある。

 煙草をくわえ、両手をズボンにつっこみながら歩く少年。

 黒須伐。

 その背中に、声がかかる。

「やあ、少年。一つ聞きたいんだが……」

 やけに親しげな女の声。聞き覚えのないソレに、無視を決め込んで歩く。

 と。


『無視するなんてツレないじゃないか』


「!」

 突然、耳元で聞こえた声に大きく前へと跳ねながら振り向く伐。

 その視線の先に立つのは一人の女。

 シャギーの入った黒いショートボブの髪を揺らすことなく、笑みを浮かべて佇む。

 胸元の大きく開いた黒いシャツと黒のタイトミニ。

 足には黒いロングブーツを履き、黒いインバネスコートを羽織っている。

 半眼の大きな黒瞳に見つめられ、伐は身動きが出来なくなった。

 女に感じた気配は、久しく感じることの無かった、本物のプロの気配。

 本物の死の気配。

 それを感じ、全身から冷や汗が吹き出す。

 その様子を見た彼女は、軽く感嘆する。

「ほう。良いカンをしている。さすがは黒猫の後継か」

 次の瞬間、伐を捕らえて離さなかった、気配が雲散無消する。

 同時に、体にかかっていた重圧が消え去り、伐は僅かに息を吐く。

「……あの人を知っているのか?」

 口をついて出たのはそんな言葉。

 それに対して女は、笑んで見せた。

「ああ、知り合いだよ。友人ではなかったがね? ‘ノラ猫’黒須伐君」

「……。」

 自己紹介もしていない己の名前と通り名で呼ばれ、伐の意識の警戒レベルが引き上げられる。

 しかし、女は気にする風でもなく言葉を続ける。

「私は、北丘めぐみ。ある人物を捜しているんだが、知らないかい?」

 そう訊ねるめぐみに答えず、眼差しを鋭く細める伐。

 それすら受け流し、めぐみは続ける。

「クリスティーナ=ウェストロードという、アメリカ人の少女なんだが」

「……知らないな」

 口をついて出た言葉に、伐自身驚いていたが、顔には全く浮かぶことはなく、その視線だけがめぐみの視線と絡み合った。

 数瞬、先に視線を外したのは、めぐみだった。

「……そうか。いや失敬したね。知らないなら構わないよ。邪魔したね」

 そう言って踵を返し、歩き出す。

 そのことに安堵の息が漏れそうになった瞬間、めぐみが声を上げた。

「そうそう!」

 その声に、伐の身体が硬直する。

 めぐみは、立ち止まり、右の人差し指を一本立てながら、右目だけで伐を見やると、笑みを浮かべる。

「……口、火傷するよ?」

 言われて初めてくわえた煙草が、すでにフィルターを焦がし始めていることに気づいた。

 それだけ指摘しためぐみは、前を向き、右手を大きく振って、また歩き出し始めた。

 もはや用を為さなくなった煙草を吐き捨てた伐は、苦虫を噛み潰したような顔で、めぐみの背中が見えなくなるまで見送り続けた。




 自宅としているテナントビルまで戻ってきた伐は、ため息を吐いた。

 一応、尾行も警戒していたのだが、相手が自分の名前も通り名も知っていた以上、自宅もすでに知られているかもしれないことに思い当たり、バカバカしくなった。

「……こういう時こそ、堂々としていれば良いってな」

 そう呟いて鍵を開けて戸を開く。

「お帰りなさい、伐」

 かけられた声に足が止まる。

 久しく聞かなかった言葉に、胸が震えた気がした。

 と、顔を上げた先には、笑顔で伐を迎える金髪の少女。

 その目は充血し、頬には跡が残っている。

 そして……。

「……おい」

「ん? なに? 伐」

 伐に声をかけられ返事をする少女、クリスティーナ=ウェストロードこと、クリス。

「……その格好はなんだ」

「ん? 欲情した?」

 少しだけ苛ついたかのような伐の声も気にすることなくクリスは首を傾げる。

 その身体にエプロンをつけているのだが、肌色の両手両足を惜しげもなくさらされており、彼女の鎖骨が、生々しさを演出している。

 そのままクルリと一回転。

 引き締まった健康的な尻と、艶めかしいツヤを見せる肩胛骨が、伐の視界を通り過ぎる。

 クリスのその姿は、いわゆる裸エプロンと呼ばれるモノだった。

「……なに考えてやがる」

 痛痒を堪えるように頭を押さえて、クリスを中に押し込んでいく伐。

「バカな事してんなら、このまま押し倒すぞ?」

 思わず口をついた言葉。

 そのまま、彼女の胸へと手を伸ばす。

 しかし。

「いいよ?」

 その手を取り、エプロンの上ではなく、下へと誘導する。

 感情を感じさせない顔で伐を見つめる。

「こんな、汚れきった身体で良ければ、あなたを刻み込んで? 私の身体に、あなたを教えて?」

「お、おい?」

 様子がおかしく成りつつある彼女に、戸惑いの声を上げる伐。

 その様に、クリスの言動が加速する。

「ねえ、伐。身体が熱いの。熱くて熱くて仕方ないの。なのに、身体の奥が寒いの。熱くて寒くて仕方ないの。ねえ、伐。私を抱いて? 汚らしいこんな身体だけど、前も後ろも使えるよ? 胸が良ければ胸でも良いし、お口が良ければそれでもいいよ? だから抱いて? 伐。ねえっ! 抱いて伐! 抱いて抱いて? ねえねえねえっ!」

 鬼気迫る様子でせがむクリス。

 その様子に、伐は意を決し、彼女の首筋に手刀を振り降ろした。

 糸が切れた人形のようにくず折れるクリス。

 それを、優しく抱き止め、伐は呟く。

「……たく、めんどくせえ。問題ばかり増えやがる」

 言いながら伐は、真剣な顔で携帯を取りだし、どこかへ連絡し始めた。

 第弐夜、いかがでしたか?

 また次回もよろしくお願いします♪

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