見捨てられた星 星間戦争の狭間で
見捨てられた星
「今度の引越し先はどこだと思う?」
まただ。このところ毎晩、訳の分からない声に悩まされている。いや、声ではない、直接、頭の中に響いてくる誰か二人の会話なのだが、そのときには分かっているのに、それを記述しようとすると、我が国の言葉では表現出来ないような概念が多々混じっており、会話を正しく伝えられるかどうか自信は全くない。
そもそも二人の名前そのものが、聞いている分には分かっているのだが、言語化出来ない。音声言語とはまったく異なる、いわば思考波そのものが伝わって来ているような会話である。それが遠隔地どうしだと何か思考波の増幅装置のようなものを使うらしく、その機器が少し故障して、言ってしまえば漏電して私の頭に伝わってきているようなのだ。
名前なしでは会話の内容を伝えることも出来ないので、仮にアルファ1とアルファ2としよう。何日か前、最初に聞こえてきたのはアルファ1のぼやきにもにた独り言で、それを聞きとがめたアルファ2がそれをたしなめた形の会話で、話しから察するに、どこかの出張所の責任者とその部下のようだ。話しの中身からして、どのような組織かは分からないけれど、いわば左遷先のような僻地にある出張所で,所長のアルファ2も、その組織の中では下っ端の中間管理職のように思える。
アルファ2の質問に、アルファ1が途方に暮れたようにつぶやいた。「引越し? また引越しですか? 今やっているプロジェクトはどうなるんです」
「もちろん、中止だ。上層部では、この星にはまったく望みがないと判断した。プロジェクトは即刻中止して、新たな勤務先へ向かうように指令が出た」
「ちょっと待って下さい」アルファ1が慌てて答える。「今、いろいろやっているこの星の人達はどうするんですか?」
「放っておくしかない。なるようになるさ」
「私たちが指導者として育成し、今、その人がリーダーとしてこの星の知的生命体を良い方向に持って行けるかどうかの瀬戸際なんですよ」
「上層部は、それが上手くいったところで、結局われわれの望むような戦力にはならないという判断だ。そんなこと最初から分かっていたことなのにな」
「それで、次の星は、もう少し望みがありそうなんですか?」
「まあ、そう望みたいところだがな、わがチームの成績からして、そんなに良い条件の星が当たるとは思えない。まず、その星の生物観察から始めて、高度な知的生命体になり得る種を選んで、遺伝子操作をする。その生命体が増殖し、社会を形成して文明を作り出すことができるようにする助けを陰から行うという仕事だが、そもそも今度の星では、そのような可能性の高い生命体が存在するかどうかも分からないと来た」
「まるっきり左遷ですね」
「だから、これまでの成績がな。誰のせいとは言わんが悪すぎる」
「私のせいで皆にご迷惑をかけて申し訳ないですな」
「まあ、そうやさぐれるな」
「でも、今、彼らを見捨てたら、私たちが指導者に選んだあの男はどうなるんですか」
アルファ1が強い語気でアルファ2に迫っているようだ。わたしは頭痛がするぐらいに激しい憤りを感じて、びっくりしてベッドから起き上がった。どうも思考波を増幅する機器の漏電が少し悪化したようだ。
「まあ、なるようになるさ」
「なるようになるで済むんですか? 彼にどんな悲劇が待っているか想像出来ないわけでもなし、あまりにも無責任ではないですか。彼らには、私たちを神としてあがめよ、私たちの言うことは絶対だという風に指導してきたのに、最後の最後に彼らを見捨てるなんて、それがわれわれ高度文明人を自負するアレフ人のやることですか?」
実は、かれらの種族名は言語化しにくい。アレフというのは、私が仮につけた名前で、これからはおおむね私たちの言葉でどう言うか分かっているものはその名前で、言語化出来ないものは、私が仮につけた名前を使う。面倒だからいちいちどちらであるか言及しないが、それほど分かりにくくないと思うので、お許し願いたい。
「お前は前の星でも、これと同じ状況で命令違反をやりかけて、おかげでわれわれのチームが左遷されたのを忘れたのか」
「忘れてはいません。しかし、われわれは彼らに道徳というものをたたき込んだはずです。それなのにわれわれが約束を破るという非道徳的なことをやっていいとは思えませんが」
「あのなあ。私にだってお前の思いは分からないわけではない。しかし、現状は、そんなことを言っておれる状況ではないのだ。今いろいろやっているわれわれの業務の最終目的は何だ?」
「あの残虐なアスラの侵略から我々を守るために、同盟軍と成り得る高度な知的生命体の社会を育成することです」
「分かっているじゃないか。それが一番大事なことで、多くのチームがいろいろな星でそのための作業をやっている。実際に成果を上げ、非常に強力な軍事力を持つ星を育て上げ、同盟軍の中核をなすような戦力とした例もある。しかし、まだまだ戦力不足だ」
「アフラと和平の道はないんですか?」
「今更、何を言っている。いいか、問題は「戦争か平和か」ではない。それなら答えは決まっている。しかしその答えには何の意味もない。そもそもそういう問題の立て方自体が間違っているのさ。弱小な国にとっては、問題は「戦争か奴隷か」なんだ。アフラの現状を見て、降伏をしたときに起ることが、戦争で国が滅びることよりも悪いことは、残念ながら明らかだ。そのような場合、死を賭して立ち上がらなければならない時もある。われわれはその決断をすでにしたんだ」
「せめて、この星であの男の指導者としての仕事が終わるまで待てませんか」
「残念ながらそれは無理だ。アスラの軍備増強はますます激しくなってきており、今、一触即発の状況になっている。われわれがこの星を離れれば、その後に大きな混乱が生じ、この星の知的生命体が滅亡する事態が生じることは火を見るより明らかだけれど、それは放っておくしかない」
そのとき、突然、アルファ1の思い描くその星の終末の様子が、私の頭の中に浮かんだ。彼らの出張所のあるその星が、他のどこか遠くにある星ではなく、まさに彼の今住んでいるこの星であることが一瞬に理解された。呆然としている私の頭に彼らの会話がまだ聞こえているが、それは私の頭をただ通り過ぎていた。
「そう言えば、同じように捨てられたこの前の星、彼らの言葉ではテラと呼ばれていたあの星、オメガ491の第3惑星は今頃どうなっているだろうな? それにあの男も?」
(完)




