↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星詠みの調律師(アストラル・チューナー)  作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/50

### 第6巻 第五章:再会と断絶

### 第6巻 第五章:再会と断絶


僕の存在は、もはや街のインフラそのものに溶け込み、輪郭を失いつつあった。だが、その希薄な意識の中で、僕は一つの「揺らぎ」を感知した。


街の片隅、かつて管理官の命を受け、僕たちを執拗に追い詰めていた元・執行官の男が、古びたベンチに座っていた。彼は管理官たちが消滅した後、記憶を消去されることもなく、ただ一市民としてこの無気力な街で生き残っていた。


彼がかつて音楽を聴いて流した涙を、僕は忘れていない。


僕は、シノの意識を優しく守りながら、男の記憶の回路に深く潜り込んだ。彼の中には、まだ「管理官としての義務」と「人間としての感情」が複雑に絡み合った残骸が眠っている。


「……誰だ?」


男が空を見上げる。僕たちの声は物理的な音波ではなく、彼の脳内に直接響く思考の残響として届いたはずだ。


「かつての追跡者、そして……今はただの亡霊だ」


僕は彼に、僕たちがこの街で経験したすべてを流し込んだ。管理官として彼が殺してきた者たちの命の重さ、シノと見た空の青さ、そして今、この街が沈もうとしている虚無の深さ。


男の表情が歪む。彼の中で、かつて強固に守っていた「システムの論理」が、僕たちの流し込んだ「感情の波」によって崩壊していく。


「なぜ……なぜ今更、私にこんなものを……」


「あんたも、この街の被害者だからだ」


男は震える手で顔を覆った。彼は管理官として「完璧な調和」を守るために、他人の感情を切り捨ててきた。しかし、その彼自身が、本当は誰よりも「孤独」という名の虚無に蝕まれていたのだ。


男の目から、大粒の涙が零れ落ちる。それは、彼が管理官時代には決して流すことのできなかった、純粋な人間の苦しみだった。


「……これで、終わりなのか? 私のような人間に、救いはあるのか?」


男の問いかけに、僕は言葉を探す。しかし、その時、僕の核を構成していたデータが、臨界点を超えて大きく軋んだ。


「……救いなんて、どこにもないよ。あるのは、ただ自分たちが選んだ音だけだ」


僕は彼に対して、最後の一手を打った。それは、かつて僕たちが管理官の塔で奏でた、あの「最初の一音」を彼自身の心に刻み込むことだった。彼というフィルターを通すことで、僕たちの旋律が、街の人々へ向けた「最後の呼びかけ」に変わる。


「行け。あんたのその涙で、この街を動かしてくれ」


男は立ち上がり、ゆっくりと広場へ向かって歩き出した。彼の背中は、もはや執行官のものではない。ただの、感情を取り戻した一人の人間としての足取りだった。


しかし、その瞬間、僕は決定的な断絶を感じた。

彼に旋律を預けたことで、僕が持っていた「調律師としての記憶の核」が、完全に街のシステムへと流出していったのだ。


シノが僕の腕を掴もうとするが、その手はすり抜ける。

僕と彼女の、ただ一つの繋がりであった「個としての記憶」が、急速に遠ざかっていく。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。