4.自分で自分を守るために
彼の母は、いまだに現役です。
あー、疲れた。
今は、まだ昼を少し過ぎたくらいか。
この世界では一日二食が基本らしく、昼食というものはない。
それにしても、キシン先生の「試験」は厳しすぎる。
(俺じゃなかったら、心が折れてるぞ……)
精神年齢が大人だからなんとか耐えられたが、普通の子どもなら泣き出していてもおかしくない。
父様から「あとで書斎に来るように」と言われているが……。
(少しだけ仮眠を取るか)
ベッドに横になった瞬間、意識がすっと落ちていった。
目が覚めたときには、すでに日が沈み始めていた。
窓の外が、夕焼けで赤く染まっている。
「……やばい。」
思わず声が漏れた。
(寝すぎた……!)
父様に怒られる。
とりあえず、急いで書斎に向かわないと。
廊下を小走りで進み、書斎の前に立つ。
コンコンコン。
扉をノックする。
この世界でも、部屋に入る前にノックする習慣は同じらしい。
「父様、入ります。」
「入れ。疲れは取れたな。」
許可をもらい、扉を開ける。
部屋の中には――父様のほかに、二人の人物がいた。
モロッチョさんと、キシンさんだ。
「はい……少し寝すぎてしまいましたが。」
父様は小さく頷いた。
「よい。今夜はゆっくり休め。」
そして、少し真剣な表情になる。
「だが、これから話すことは重要だ。よく聞くように。」
「はい。」
その後、父様は事情を説明してくれた。
……正直、かなり長かったので、頭の中でまとめるとこうだ。
父様の兄――べレック侯爵と、フォッタ伯爵の対立が激化している。
その争いは、かなり危険なところまで来ているらしい。
最悪の場合――
父様や、俺の命まで狙われる可能性がある。
そのため、護衛としてモロッチョさんとキシンさんを雇った。
そして、ついでに俺にも戦う力を身につけさせるというわけだ。
そもそもの原因は、べレック侯爵がキリシマン神聖国との平和条約を強引に進めたことらしい。
(これだから貴族は嫌いなんだよな……)
心の中でため息をつく。
(俺たちを巻き込むなよ)
……とはいえ。
(まあ、強くなる機会があるだけマシか)
キシンさんが口を開いた。
「坊主は回避系のスキルを持っているらしいからな。」
鋭い目がこちらを向く。
「大丈夫だとは思うが――」
「スキルに依存するのはよくない。」
モロッチョさんが続ける。
「スキルはあくまで補助の道具だと思え。」
キシンさんが頷く。
「モロッチョの言う通りだ。」
「お主にはまだ技術が足りん。」
そして、短く言った。
「明日から修行だ。」
「今日はよく寝ておけ。」
父様も静かに言う。
「私はあまりお前を見てやれないかもしれないが……」
少しだけ優しい目になる。
「頑張れよ。」
俺は姿勢を正した。
「はい。精一杯やらせてもらいます。」
こうして俺は――
モロッチョさんとキシンさん、二人の弟子になった。
その夜のことだった。
屋敷に刺客が侵入した。
……もっとも、そのとき俺はトイレに行っていた。
偶然にも、部屋にいなかったのだ。
その気配を察知したキシンさんが、すぐに刺客を撃退した。
後で聞いた話だが、刺客の装備にはフォッタ伯爵家の家紋があったらしい。
おそらく、フォッタ伯爵の差し金だろう。
(また助かったな……)
頭に浮かぶのは、あのスキル。
《危機一髪》
どう考えても、確率操作系のスキルだ。
(休ませてほしいな……)
思わず天井を見る。
(でも、このスキルがなかったら……)
多分、俺はもう死んでいた。
(危ない、危ない)
内心で冷や汗をかきながら、俺は布団に潜り込んだ。
そして、そのまま深い眠りに落ちたのだった。




