間話 レブリック公国
レブリック公国。
それは大国と呼ばれるにふさわしい力を持ちながら、現在は帝国の傘下に置かれている国家である。
かつて公国は、大陸でも屈指の国力を誇る国家だった。豊かな商業都市をいくつも抱え、交易によって莫大な富を築き上げていたのである。
しかし、その繁栄は永遠ではなかった。
帝国との幾度にもわたる戦争。
長きにわたる対立の末、運命を決めたのは帝国軍による奇襲だった。
圧倒的な兵力と戦術の前に、公国は敗北。
それ以降、レブリック公国は帝国の支配下に入ることとなった。
もっとも、完全に支配されているわけではない。
帝国には現在、五つの属国が存在するが、その中でもレブリック公国は最大規模を誇る国家である。
さらに、公国は軍事国家ではなく、商業を中心とする国家であるため、帝国に対して反乱を起こす可能性は低いと判断された。
その結果、帝国は公国に対して厳しい監視のもとでの自治を認めている。
だが、世界情勢は決して穏やかではなかった。
公国の周辺には二つの大国が存在している。
一つは、ユーフラテス民主共和国。
もう一つは、キリシマン神聖国。
この三国の間には、常に緊張が漂っていた。
そして――事件は起きた。
帝国歴六十五年。
帝国成立を元年とするこの暦において、忘れることのできない年となる。
キリシマン神聖国による軍事侵攻が発生したのである。
公国軍は必死に抵抗したが、結果は敗北。
国境に築かれていた三つの砦が陥落し、多くの兵士が命を落とした。
この戦いによって、ある計画も完全に崩れ去った。
それは――べレック侯爵が推し進めていた、キリシマン神聖国との平和条約である。
その日、レブリック公国の王宮では緊急の貴族会議が開かれていた。
重厚な石造りの会議室。
高い天井には巨大なシャンデリアが吊るされ、長い円卓の周囲には公国の有力貴族たちが並んで座っている。
しかし、いつものような穏やかな雰囲気はなかった。
誰もが険しい表情をしている。
会議室の空気は張り詰め、まるで戦場のような緊張感が漂っていた。
やがて、扉がゆっくりと開かれる。
近衛兵が声を上げた。
「国王陛下、ご入場!」
レブリック公国の国王――
フランコース=レブリックが姿を現した。
白髪混じりの髪に、威厳ある眼差し。
王はゆっくりと玉座に腰掛けると、静かに口を開いた。
「会議を始める。」
その言葉を合図に、貴族たちの議論が一斉に噴き出した。
「これもすべて、べレック侯爵のせいだ!」
「そうだ!どう責任を取るつもりだ!」
怒号が飛び交う。
しかし、すぐに反論の声も上がった。
「待て!侯爵は仕事をきちんと果たした!」
「裏切ったのはキリシマン神聖国の方だ!」
「帝国がユーフラテス民主共和国に侵攻したのだぞ!キリシマン神聖国が報復に出る可能性など、最初から分かっていたはずだ!」
「だからこそ平和条約を結んだのではないか!」
議論は次第に激しさを増していった。
この会議には、二つの勢力が存在している。
一つは、べレック侯爵を中心とする和平派。
外交と条約によって戦争を避けようとする者たちだ。
もう一つは、フォッタ伯爵を中心とする武力派。
軍事力によって国を守るべきだと主張する者たちである。
両者の対立は以前から続いていたが、今回の敗北によってそれは決定的なものとなった。
会議は、開始した瞬間から完全に荒れていた。
机を叩く音。
怒鳴り声。
互いを非難する言葉。
まるで市場の喧騒のような騒ぎだった。
そのとき――
「静まれ。」
低く、しかし圧倒的な威圧感を持つ声が会議室に響いた。
一瞬で、すべての声が止まる。
フランコース王がゆっくりと立ち上がっていた。
「儂は、この問題について帝国皇帝に判断を仰ぐつもりだ。」
貴族たちがざわめく。
帝国の判断――
それは、この国の運命を大きく左右するものだからだ。
「それまでは、両者とも政務に集中せよ。」
王の視線が貴族たちを見渡す。
「内部分裂している場合ではない。」
しばらくの沈黙の後、貴族たちは頭を下げた。
「「御意。」」
王はゆっくりと頷いた。
「今日は、これからの対策について意見を聞きたい。」
そして、静かに続ける。
「過去を責めても何も生まれぬ。
それよりも、未来をどうするかを語るべきだ。」
その一言によって、議論の方向はようやく変わった。
貴族たちは次々と対策案を述べていく。
国境防衛の強化。
軍の再編。
帝国への援軍要請。
外交交渉の可能性。
公国内の分断は、これからさらに深まっていくのであった。
べレックさんを伯爵かる侯爵に上げました。




