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至って普通に生きたいのに  作者: 本丸
少年期(帝国騒乱編)
3/11

間話 レブリック公国

 レブリック公国。

 それは大国と呼ばれるにふさわしい力を持ちながら、現在は帝国の傘下に置かれている国家である。


 かつて公国は、大陸でも屈指の国力を誇る国家だった。豊かな商業都市をいくつも抱え、交易によって莫大な富を築き上げていたのである。


 しかし、その繁栄は永遠ではなかった。


 帝国との幾度にもわたる戦争。

 長きにわたる対立の末、運命を決めたのは帝国軍による奇襲だった。


 圧倒的な兵力と戦術の前に、公国は敗北。

 それ以降、レブリック公国は帝国の支配下に入ることとなった。


 もっとも、完全に支配されているわけではない。


 帝国には現在、五つの属国が存在するが、その中でもレブリック公国は最大規模を誇る国家である。

 さらに、公国は軍事国家ではなく、商業を中心とする国家であるため、帝国に対して反乱を起こす可能性は低いと判断された。


 その結果、帝国は公国に対して厳しい監視のもとでの自治を認めている。


 だが、世界情勢は決して穏やかではなかった。


 公国の周辺には二つの大国が存在している。


 一つは、ユーフラテス民主共和国。

 もう一つは、キリシマン神聖国。


 この三国の間には、常に緊張が漂っていた。


 そして――事件は起きた。


 帝国歴六十五年。

 帝国成立を元年とするこの暦において、忘れることのできない年となる。


 キリシマン神聖国による軍事侵攻が発生したのである。


 公国軍は必死に抵抗したが、結果は敗北。

 国境に築かれていた三つの砦が陥落し、多くの兵士が命を落とした。


 この戦いによって、ある計画も完全に崩れ去った。


 それは――べレック侯爵が推し進めていた、キリシマン神聖国との平和条約である。


 その日、レブリック公国の王宮では緊急の貴族会議が開かれていた。


 重厚な石造りの会議室。

 高い天井には巨大なシャンデリアが吊るされ、長い円卓の周囲には公国の有力貴族たちが並んで座っている。


 しかし、いつものような穏やかな雰囲気はなかった。


 誰もが険しい表情をしている。

 会議室の空気は張り詰め、まるで戦場のような緊張感が漂っていた。


 やがて、扉がゆっくりと開かれる。


 近衛兵が声を上げた。


「国王陛下、ご入場!」


 レブリック公国の国王――

 フランコース=レブリックが姿を現した。


 白髪混じりの髪に、威厳ある眼差し。

 王はゆっくりと玉座に腰掛けると、静かに口を開いた。


「会議を始める。」


 その言葉を合図に、貴族たちの議論が一斉に噴き出した。


「これもすべて、べレック侯爵のせいだ!」


「そうだ!どう責任を取るつもりだ!」


 怒号が飛び交う。


 しかし、すぐに反論の声も上がった。


「待て!侯爵は仕事をきちんと果たした!」


「裏切ったのはキリシマン神聖国の方だ!」


「帝国がユーフラテス民主共和国に侵攻したのだぞ!キリシマン神聖国が報復に出る可能性など、最初から分かっていたはずだ!」


「だからこそ平和条約を結んだのではないか!」


 議論は次第に激しさを増していった。


 この会議には、二つの勢力が存在している。


 一つは、べレック侯爵を中心とする和平派。

 外交と条約によって戦争を避けようとする者たちだ。


 もう一つは、フォッタ伯爵を中心とする武力派。

 軍事力によって国を守るべきだと主張する者たちである。


 両者の対立は以前から続いていたが、今回の敗北によってそれは決定的なものとなった。


 会議は、開始した瞬間から完全に荒れていた。


 机を叩く音。

 怒鳴り声。

 互いを非難する言葉。


 まるで市場の喧騒のような騒ぎだった。


 そのとき――


「静まれ。」


 低く、しかし圧倒的な威圧感を持つ声が会議室に響いた。


 一瞬で、すべての声が止まる。


 フランコース王がゆっくりと立ち上がっていた。


「儂は、この問題について帝国皇帝に判断を仰ぐつもりだ。」


 貴族たちがざわめく。


 帝国の判断――

 それは、この国の運命を大きく左右するものだからだ。


「それまでは、両者とも政務に集中せよ。」


 王の視線が貴族たちを見渡す。


「内部分裂している場合ではない。」


 しばらくの沈黙の後、貴族たちは頭を下げた。


「「御意。」」


 王はゆっくりと頷いた。


「今日は、これからの対策について意見を聞きたい。」


 そして、静かに続ける。


「過去を責めても何も生まれぬ。

 それよりも、未来をどうするかを語るべきだ。」


 その一言によって、議論の方向はようやく変わった。


 貴族たちは次々と対策案を述べていく。


 国境防衛の強化。

 軍の再編。

 帝国への援軍要請。

 外交交渉の可能性。


 公国内の分断は、これからさらに深まっていくのであった。



べレックさんを伯爵かる侯爵に上げました。

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