希望の先へ
光が差し込むカーテンの隙間、そこから僕はいつも外を覗いているだけ。誰も、僕がここにいる事なんて知らない。何の変哲もない一軒家。目を閉じれば、登下校の声や、車のエンジン音が聞こえる。暗い、暗い部屋。昼なのか夜なのかもわからない。だけど、お腹は減る。寂しさもある。だけど、学校に行くのが怖いという恐怖心もある。この迷いや葛藤と戦う日々だった。
『なあ、映画でも見に行こうぜ』
以前、中学の頃の友人が外に出るように誘ってくれた時の言葉を思い出す。だけど、学校に行っていないからもしも知り合いと会ったら何て言えばいいかわからないし、作品自体に興味もなかったから、まあいいか、とやめてしまった。その後、行っておけば良かったかな、と後悔した。既に上映は終わっているし、その友人とも数ヶ月連絡を取っていない。何で、あの時断ってしまったのか。考えては枕に顔を埋める。
「朝ごはんできたよ」
扉越しに母に言われ、重い腰を上げて立ち上がり、のそのそと歩いて扉を開く。眠くはないけれど、癖なのか目元を擦る。僕は高校に入学し、その一週間後から学校に行っていない。そして、昨日、最後通告が来た。これ以上学校を休むと留年になると、家に電話があった。
行かない理由は、知らない人間関係に馴染む自信が突如としてなくなってしまったからだ。知らない場所で知らない人間しかいない。誰にも頼れない現状を理解してしまった時、僕はしんどい未来を想像して呼吸が苦しくなった。
「学校に行った方がいいと思う?」
僕はスクランブルエッグにケチャップを付けながら母に尋ねる。
無言でソーセージを頬張り、僕を見つめる母が、フォークを置いて口を開く。
「その質問をする時点で、学校には行った方がいいと思っているんじゃないの?」
「それは……そうだけど。怖いんだ。話したことない人と話すのは、怖い……。向こうがどんな反応するかとか、もしも嫌われたらどうしようとか、色々考えたら、行動できなくなっちゃうんだよ。中学の友達と、一緒の学校に行けばよかった……」
俯いている僕に母が冷静な声音で言う。
「自分が決めた道を、自分が間違いだと決めつけたら、誰がそれを正解にするの。あなたが自分自身を否定したら、それはもう、違うと言っているようなもん。でもね、この道をどう彩るかはあなたが決めたらいいんじゃない? 学校に行くべきだと思うのなら行けばいいし、やめるべきだと思うのならやめなさい。正解だけを選べる人なんて、いないわ」
初めて弱音を吐いた僕に、母は自分の意見をはっきりと伝えてくれて、僕はうじうじしていた自分が情けなく、涙がこぼれた。
次の日、怖かったけれど、久しぶりに制服を着て電車に乗った。そして、三日、一週間と続けて行き、段々と行くことには慣れてきた。弱音を吐くのは、大事だったのだと、身に染みて感じた。勉強は遅れてしまったけれど、そんな事はどうでもいい。友達だって沢山いなくてもいい。ただ、自分が決めた道を自信を持って歩むことが大切なのだと、教えてもらった。
未来の事なんてわからない。
だけど、明日の朝ご飯くらいなら見当が付く。
それくらい近い部分をできるだけ見て、生きていこう。
少しずつ前に進めばいいのだ。
教室を開くと、飛び交う声が聞こえる。その一員になれるように、これからも自分なりにやっていこう。




