優しい魔族様(後編)
すべてを諦めて、恩のあるお店を守るため耐えようと覚悟を決めるみゆだったが、助けてくれた王子さまは人間ではなかった―――。
みゆは髪を引っ張られ、その痛さに涙が滲んだ。
泣くのは良くない、えがおえがお…。
その時、
バキバキバキッ――――。
地響きとともに光った。
ゾンビ達も驚いてはっと外を見る。
「雷!?」
「さっきまで晴れていたのにねえ…」
店内がざわついている。
みゆの髪を掴む力が消えたことに気づいて顔を上げると、
あの憂イケオジがゾンビの首を締めていた。
「クズ共が。」
また雷鳴が轟いた。
次の瞬間にはイケオジが私を抱きかかえ、いつの間にか店の外にいた。
―あまりの速さに何も見えなかった…。
お店の人も、もしかしたらゾンビの一味ですらも気づいていない奴がいるくらい。
「…大丈夫か。」
イケオジがそっと頬の水をぬぐい取った。
安心したのか泣いていた。
この世界に来てからこんなに優しく包まれたことなんてないし、自分の力でどうにもできないことは耐えるしかなかった。
「あ……ありがとう…ございます…あり…が…とうございます…」
嗚咽を漏らしながらわんわん泣き続ける間、
イケオジは何も言わずに抱きかかえてくれていた。
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「魔王様、お帰りなさいませ。…行き先くらい告げてくれてもいいのではないですか。」
「すまないライム。それと…」
そっとマントを広げ、ミューをライムに見せる。
「…!人間を攫ってきたのですか!!人間に気づかれたら、」
「大丈夫だ、この者は人間であって…人間でない。」
怪訝そうな顔だったライムだが、すぐに理解したようにてきぱきと動き始めた。
「まったく、人間を急に連れてくることなんてなかったのに!人間の店に出かけたりして、どうしてしまったんですか…!」
ぶつぶつ言いつつも魔王のマントを片付け、着替えなどの準備を使用人に指示した。
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「すまない、どうせ攫うならもっと早くしてしまえば良かったな」
―なんか心地良い声が響いてくる。
撫でられてる、もっと撫でて…。
頭を手にすりすりする。
「…。どうしたものか…。狂わされるな…。」
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みゆはぐっと伸びをした。
「はぁ~!久々にぐっすり眠れた気がする!」
―ん…ふかふかすぎ…?豪華すぎ!?
「お目覚めですか、ミュー様!」
目をぱちくりさせていると、そのメイドさんが全部教えてくれた。
実は憂イケオジが魔王様だったこと、昨夜魔王様が野蛮な人間からみゆを助け出し、魔王城に匿ってくれること、魔王様はずっとみゆの部屋で見守った後、今はお仕事に行かれたこと。
―赤い月の時間外は出歩くな、と言われるくらいだから魔族は怖いものだと思っていたけど、魔族のがやさしいやないかい。魔族のボスがあれやぞ。人間の女の子みんな、こっちに来た方がいいよ。
メイドさんや執事さんからは何もしなくていい、休みなさいと言われたけど、ずっと働いていたため急に何もしなくなるとムズムズするので、専属メイドさんと一緒にお城を探検することにした。
ここの人々(?)を観察してわかったことだけど、魔族には男尊女卑とか言う概念すらないみたい。
男の人も女の人も役職があるし、役割があるし…。
―素敵だな…。
ふと図書室を通った時に、何やら数字を筆算のようなものでひたすら計算している人々がいた。
―筆算、懐かし~。電卓使い始めてから自分の頭で計算しなくなったなあ(笑)
…。
…!
「あの、こういう計算方法をやったら、楽にできますよ!」
そいう言って近くにあったコインを並べて、そろばんの容量でやって見せた。
魔族たちは呆気にとられて私を凝視していた。
―あ、女が生意気に出しゃばりすぎたかも…
「あなた昨夜の…!すごいことですよ!そういうことが得意なら我が補佐として働いてはくれませんか!魔王様には私から伝える。それに、あなたが近くで働いてくれていた方が彼も喜ぶでしょう。」
初めてこの世界で意見を受け入れてもらえて、じんわり、こころが温かくなった。
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それから私は魔王様とライム様(宰相らしい)の秘書としてバリバリ働かせていただけることになった。
魔王様の書斎で一緒にお仕事をすることも多かったため、魔王様は時折目を細めて微笑み、えらいえらい、と頭を撫でてくれたりした。
とにかく激甘上司だ。
それを見たライム様は絶句してたけど。
簿記の仕組みはあったけど簡単なものだったので、複式簿記を提案してみた。
魔族は国の財務数値も明確にし、無駄なコスト削減や経営手法の工夫で人間に対する売り上げも順調になっていった。
そして私は時折人間の領域に行き、人間の女の子に布教活動をしている。
そのうち人間界から女の子が激減してから、あのゾンビみたいなバカ共は初めてその大切さに気づくんだろうな。
「こんな優秀な子に気が付かぬなんて、愚かな人間共だ。」
そう言ってまた頭を撫でてくれた。
―なんか最近、、胸がきゅんって言うっていうかなんていうか…。
「あの悪党どもと店の心配はするな、あの悪党は恐怖で二度としないだろう。
あやつらの記憶も操作してあるから、店に迷惑はかからぬだろう。」
―?不穏なワードが聞こえた気がするけど、とにかくお店に迷惑が掛からないみたいでよかった!
「ありがとうございます!」
心の底からにかっと笑うと、魔王様は顎を撫でながらそっぽを向いてしまった。
―かお、あかい。
「魔王様、どうして私を助けてくれたんですか」
「ライカンだ。ライカンと呼んでくれ。
そなたがこの世界に来てしまった瞬間から、私は既に君の虜だったのかもしれない。」
「…みゆ、と呼んでくださいませんか?」
「ふふっ。わかった。みューが来た日は、寿命が長い私でも見たことの無いほど綺麗な光が流れたんだ。」
この世界の人は、みゆで止めることができないらしい。みゅーになってしまう。
人間共に襲われている私をみて、そんな綺麗な子を汚い人間に触らせてはいけないと思って思わず助けたそう。そのあともなんとなく気がかりで人間の店に通い、ひたむきに頑張る私を見るのが日々の癒しになっていったそうだ。
「半ば強引に攫ってしまった訳だが、ここの暮らしは嫌ではないかい?」
「…幸せです、ライカン様のお役に立てるし、…一緒にいられるし。」
私は照れ隠しにへへっと笑った。
ふと見ると、ライカン様は心底嬉しそうに、子供みたいに無邪気な笑顔をしていた。
私はついに、長い、長すぎる道を経て天職を見つけたのかもしれない。
ライカン様のためなら頑張れるから、一生、雇ってくれたらいいな。
上司がみんな激甘だったらいいのになーと思う今日このごろです。
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