帰路の街道にて
テンポ調整のため修正しました。
ワーウルフ退治の依頼を片付け、俺たちは王都へと戻る街道を歩いていた。
早朝の林道はまだ薄い靄が漂っており、湿った空気が肌にまとわりつく。木々の間を抜ける風は涼しかったが、剣を振るった疲労はそう簡単には抜けない。
「ふぅ……ひとまず、これで一件落着だね」
リリアが額の汗を拭い、こちらに笑みを向けてくる。
「まったく。無茶をするからだ」
隣のセラフィナが、冷ややかな眼差しをこちらへ寄越した。
「前衛があれほど足をもつれさせるなど、勇者の名が泣くぞ」
「ちょっと待て。あれは――この身体のせいだ」
思わず反論したが、言い訳がましく聞こえるのは自分でも分かっていた。
女にされてからというもの、全身のバランスが以前と違っている。
剣を振るう時の重心、脚力、腕の長さ――そのすべてが“俺”だった頃の感覚から微妙にずれていた。力が入らないわけではない。だが、昔なら余裕でいなせたはずの攻撃で足を取られることがある。
「それでも倒しきったんだから、アレンは立派だよ」
リリアが明るく言ってくれる。
彼女の気遣いには救われるが、かえって胸がちくりと痛んだ。
(……立派、ね。本物の勇者なら、あんなぎりぎりの戦いにはならなかったはずだ)
勇者として魔王に挑み、そして敗れた俺。
今はこうして女の身体を持ち、勇者と名乗ることさえできずにいる。
――勇者失格。そう自嘲したくなる瞬間が、戦いの後には必ず訪れる。
「アレン?」
リリアの声に顔を上げる。心配そうな視線がそこにあった。
「ああ、大丈夫だ。ただの疲れだ」
そう答えると、リリアは安心したように微笑んだ。
セラフィナはふん、と鼻を鳴らし、前を向いたまま歩を進める。
街道は王都へ続く主要道で、朝早くから荷馬車や旅人の往来がある。遠くで鈴の音が響き、商人の一行が王都へ急いでいるらしい。
俺たちも、王都に戻れば報酬を受け取り、しばし休息を取れるだろう。
だが、気持ちは安らがなかった。
勇者としての看板を失った今、俺にできることは何なのか。
ただ女の身体で、冒険者として依頼をこなすだけの日々――。
その先に、本当に俺の求めるものはあるのだろうか。
(いや……違う。俺は必ず元の身体を取り戻す。それが、この旅の本当の目的だ)
胸の奥で改めてそう決意する。
女の身体でハーレムなんて冗談じゃない。俺が求めるのは“勇者アレン”としての証だ。
「王都まで、もうすぐだな」
セラフィナの低い声に、現実へ引き戻される。
視線の先、林道を抜けた向こうに、遠く王都の城壁が霞んで見えていた。
俺たちの旅路はまだ続く。そのことを噛みしめながら、俺は少しだけ深く息を吐いた。