村を襲う魔獣を討て!
王都から少し離れた村が、助けを求めていた。
「夜な夜な魔獣が畑を荒らし、家畜を喰らっていく」――そう、ギルドに依頼があったのだ。
「野犬より格上か……よし、ここで勇者アレン様の本領発揮だな!」
「胸張って言わないで。揺れてるから」
「ぐっ……!」
リリアのじと目、セラフィナの冷たい視線。
くそ……俺は勇者だぞ。見返してやる!
⸻
魔獣襲来
夜。
畑の見張りに立っていた俺たちの前に、黒い影が現れた。
「グルルル……!」
毛むくじゃらの巨体、二本足で立つワーウルフ。
牙は鋭く、赤い瞳がぎらりと光る。
「わ、ワーウルフ!? B級モンスターじゃない!」リリアが叫ぶ。
「野犬どころじゃないな」セラフィナが剣を構える。
(B級だと……!? いきなり中ボスクラスじゃねえか!)
だが、逃げるわけにはいかない。
ここで戦わなきゃ、勇者アレンの名折れだ!
⸻
「うおおおおっ!」
俺は突撃した。……が。
「ぐはっ!?」
一撃で吹き飛ばされた。
地面を転がり、胸を押さえて咳き込む。
「ちょっと! 無理しないで!」リリアが駆け寄る。
「だ、だいじょうぶだ……!」
「大丈夫じゃない!」
セラフィナが冷静に割って入る。
「足手まといになるな。私が仕留める」
「ま、待て! 俺は勇者だ……まだやれる!」
ふらつく足。震える手。
だが、心の中に燃えるものは消えていなかった。
(女の体で不便でも……守らなきゃならない仲間がいる!)
⸻
ワーウルフが再び跳びかかる。
俺は咄嗟に身を低くし、地面に落ちていた畑の鋤を掴んだ。
「おりゃあああ!」
剣ではなく、鋤を横に薙ぎ払う。
意外な角度の攻撃に、ワーウルフが体勢を崩した。
「セラフィナ! 今だ!」
「……っ!」
銀の閃光が走る。セラフィナの剣が獣の腕を裂いた。
さらにリリアの魔法が炸裂し、閃光が夜を切り裂く。
俺も最後の力を振り絞って剣を振り下ろし――
「おおおおおおっ!」
ズバァァン!
ワーウルフは絶叫し、やがて崩れ落ちた。
⸻
「……はぁ、はぁ……やった……倒したぞ!」
俺は剣を掲げ、夜空に叫んだ。
「……ふん」セラフィナがそっぽを向く。
「即興で鋤を武器にする判断は悪くなかった。少しは勇者らしい」
「なっ!? お前また褒めたな!?」
「別に」
ぷいっと顔を逸らすセラフィナ。
リリアは安堵の笑顔で俺の腕を掴んだ。
「アレン……すごかったよ。ちゃんと守ってくれた」
俺はにやりと笑った。
「当たり前だ。俺は勇者だからな!」
胸を張った瞬間――また揺れた。
「……」
「……」
「な、なんでそこで見つめ合うんだ! 俺は男だあああ!」
こうして、勇者アレンの「女体でも勇者してみせる」冒険は、また一歩進んだのだった。