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それでも共に

 夜は深まり、漂着の村の焚き火が小さく弾けていた。

 セラフィナの独白を聞いた後、俺たちはしばし言葉を失っていた。風の音と川霧の揺れだけが、場を埋めていた。


「……」

 沈黙に耐えきれず、俺は焚き火に枝を足した。火がぱちっと音を立て、明かりが仲間の顔を照らす。リリアは視線を落とし、唇を噛みしめている。ミュリエルは目に涙を溜め、何か言おうとしては飲み込んでいた。セラフィナは、ただじっと剣の柄を握り締めていた。


「なあ」

 俺は深呼吸して、声を出した。

「復讐でも、希望でも、理由は違っても……それでも俺たちは一緒だ。ここまで来たんだ。これからも、だ」


 リリアが顔を上げた。

「アレン……」

 その声は少し震えていたが、確かな響きがあった。


「セラ」俺は仲間の騎士に向き直る。「お前が復讐を抱えてるのは知った。でも、俺はそれでもお前と一緒に歩きたい。復讐だけに飲まれそうなら、俺たちが止める。だから――一人で背負うな」


 セラフィナは焚き火を見つめたまま、長い間口を開かなかった。やがて、小さな吐息と共に言った。

「……勝手な独白に、答えをくれるのか」

「勝手じゃない」リリアがすかさず言った。「仲間なんだから」


 セラフィナの瞳が揺れた。炎の光に濡れ、彼女は小さく笑った。

「……それでも共に、か。なら、私も答えを返そう。復讐が剣を濁らせるなら、その時は……頼む」

「言っただろ。呼び戻すって」

 俺の言葉に、セラフィナはこくりと頷いた。



 その後は、少しだけ肩の力を抜いた。リリアが弓を抱えたまま「寒い」と言えば、ミュリエルが毛布を分け合う。俺は炭火の残りで干し肉を炙り、皆で小さくかじった。くだらないやり取りが戻り、笑い声が少しだけ焚き火に混ざった。


「ねぇ、お姉ちゃん」ミュリエルが俺の袖を引いた。

「ん?」

「さっきの言葉、忘れないでくださいね。“それでも一緒”って」

「ああ」

「私も言いますから。どんな時でも」


 リリアがにやりと笑う。

「お姉ちゃん勇者、責任重大だね」

「やめろ!」

 セラフィナまで肩を震わせた。笑う顔はぎこちなくても、確かに柔らかかった。


 その夜、俺たちは初めて「それでも共に」と胸を張って言えた気がした。勇者じゃなくても、呪いに怯えていても、未熟でも。四人なら進める。そう信じられる夜だった。


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