それでも共に
夜は深まり、漂着の村の焚き火が小さく弾けていた。
セラフィナの独白を聞いた後、俺たちはしばし言葉を失っていた。風の音と川霧の揺れだけが、場を埋めていた。
「……」
沈黙に耐えきれず、俺は焚き火に枝を足した。火がぱちっと音を立て、明かりが仲間の顔を照らす。リリアは視線を落とし、唇を噛みしめている。ミュリエルは目に涙を溜め、何か言おうとしては飲み込んでいた。セラフィナは、ただじっと剣の柄を握り締めていた。
「なあ」
俺は深呼吸して、声を出した。
「復讐でも、希望でも、理由は違っても……それでも俺たちは一緒だ。ここまで来たんだ。これからも、だ」
リリアが顔を上げた。
「アレン……」
その声は少し震えていたが、確かな響きがあった。
「セラ」俺は仲間の騎士に向き直る。「お前が復讐を抱えてるのは知った。でも、俺はそれでもお前と一緒に歩きたい。復讐だけに飲まれそうなら、俺たちが止める。だから――一人で背負うな」
セラフィナは焚き火を見つめたまま、長い間口を開かなかった。やがて、小さな吐息と共に言った。
「……勝手な独白に、答えをくれるのか」
「勝手じゃない」リリアがすかさず言った。「仲間なんだから」
セラフィナの瞳が揺れた。炎の光に濡れ、彼女は小さく笑った。
「……それでも共に、か。なら、私も答えを返そう。復讐が剣を濁らせるなら、その時は……頼む」
「言っただろ。呼び戻すって」
俺の言葉に、セラフィナはこくりと頷いた。
◇
その後は、少しだけ肩の力を抜いた。リリアが弓を抱えたまま「寒い」と言えば、ミュリエルが毛布を分け合う。俺は炭火の残りで干し肉を炙り、皆で小さくかじった。くだらないやり取りが戻り、笑い声が少しだけ焚き火に混ざった。
「ねぇ、お姉ちゃん」ミュリエルが俺の袖を引いた。
「ん?」
「さっきの言葉、忘れないでくださいね。“それでも一緒”って」
「ああ」
「私も言いますから。どんな時でも」
リリアがにやりと笑う。
「お姉ちゃん勇者、責任重大だね」
「やめろ!」
セラフィナまで肩を震わせた。笑う顔はぎこちなくても、確かに柔らかかった。
その夜、俺たちは初めて「それでも共に」と胸を張って言えた気がした。勇者じゃなくても、呪いに怯えていても、未熟でも。四人なら進める。そう信じられる夜だった。




