帰還と評価
「どうかお気をつけて……!」
「王都でも噂になりますよ、きっと!」
「勇者様に祝福を!」
――勇者。
その言葉が耳に刺さる。俺は勇者じゃない。ただの落ちこぼれで、偶然生き残っただけの存在だ。
けれど、誰もがそうは見ない。俺たちを見送る瞳は、希望に満ちた輝きを宿していた。
◇
王都への道のりは数日。
道中で出会う旅人や商人までが、俺たちの顔を見るや立ち止まり、声をかけてきた。
「あなた方があの魔獣を討ったと聞きました!」
「まさか本当に生きて戻ってこられるなんて……!」
噂はすでに広がっていた。村からの早馬が王都へと急いだのだろう。
まだ到着していないのに、俺たちは「凱旋する英雄」として迎えられつつあった。
◇
やがて、王都の城門が見えた。
高い石壁の向こうから、太鼓とラッパの音が響いてくる。近づくほどに、その音は大きくなり、群衆のざわめきが重なった。
「……まさか、こんな」
リリアが呆気に取られた声を漏らす。
門前には大勢の市民が集まっていた。色とりどりの旗を振り、口々に叫ぶ。
「勇者だ! 勇者が帰ってきた!」
「万歳! 勇者様万歳!」
その歓声は嵐のようで、俺の足を止めた。
背中を押すように、群衆の視線が一斉に注がれる。
セラフィナが小声で囁いた。
「どうやら、完全に祭り上げられたな」
ミュリエルは胸に手を当て、俯いたまま小さく震えていた。
「アレンさん……」
俺は笑うこともできず、ただ唇を噛んだ。
王都の人々は、俺を本物の勇者だと信じて疑わない。
けれど――俺は知っている。
あの戦いで、もし仲間が一人でも欠けていたら、俺はケルベロスに喰い殺されていた。
俺一人では何もできなかった。
それでも、今この瞬間、王都全体が「勇者の帰還」を祝福している。
◇
城門をくぐると、待ち受けていた王家の使者が声を張り上げた。
「ケルベロスを討ち果たし、辺境を救った勇者一行よ! 陛下がお待ちだ!」
兵士たちが整列し、花びらが舞い、楽団が演奏を奏でる。
王都は完全に祝祭の空気に包まれていた。
俺はその中を、仲間たちと共に歩み出す。
人々の歓声を浴びながら。
だが胸の奥では、冷たい重石が沈んでいくようだった。
(俺は勇者なんかじゃない……それなのに――)
「勇者」という名が、ますます俺の肩に重くのしかかっていくのを、ひしひしと感じていた。




