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帰還と評価

「どうかお気をつけて……!」

「王都でも噂になりますよ、きっと!」

「勇者様に祝福を!」


 ――勇者。


 その言葉が耳に刺さる。俺は勇者じゃない。ただの落ちこぼれで、偶然生き残っただけの存在だ。

 けれど、誰もがそうは見ない。俺たちを見送る瞳は、希望に満ちた輝きを宿していた。



 王都への道のりは数日。

 道中で出会う旅人や商人までが、俺たちの顔を見るや立ち止まり、声をかけてきた。


「あなた方があの魔獣を討ったと聞きました!」

「まさか本当に生きて戻ってこられるなんて……!」


 噂はすでに広がっていた。村からの早馬が王都へと急いだのだろう。

 まだ到着していないのに、俺たちは「凱旋する英雄」として迎えられつつあった。



 やがて、王都の城門が見えた。

 高い石壁の向こうから、太鼓とラッパの音が響いてくる。近づくほどに、その音は大きくなり、群衆のざわめきが重なった。


「……まさか、こんな」

 リリアが呆気に取られた声を漏らす。


 門前には大勢の市民が集まっていた。色とりどりの旗を振り、口々に叫ぶ。


「勇者だ! 勇者が帰ってきた!」

「万歳! 勇者様万歳!」


 その歓声は嵐のようで、俺の足を止めた。

 背中を押すように、群衆の視線が一斉に注がれる。


 セラフィナが小声で囁いた。

「どうやら、完全に祭り上げられたな」


 ミュリエルは胸に手を当て、俯いたまま小さく震えていた。

「アレンさん……」


 俺は笑うこともできず、ただ唇を噛んだ。

 王都の人々は、俺を本物の勇者だと信じて疑わない。

 けれど――俺は知っている。


 あの戦いで、もし仲間が一人でも欠けていたら、俺はケルベロスに喰い殺されていた。

 俺一人では何もできなかった。


 それでも、今この瞬間、王都全体が「勇者の帰還」を祝福している。



 城門をくぐると、待ち受けていた王家の使者が声を張り上げた。

「ケルベロスを討ち果たし、辺境を救った勇者一行よ! 陛下がお待ちだ!」


 兵士たちが整列し、花びらが舞い、楽団が演奏を奏でる。

 王都は完全に祝祭の空気に包まれていた。


 俺はその中を、仲間たちと共に歩み出す。

 人々の歓声を浴びながら。

 だが胸の奥では、冷たい重石が沈んでいくようだった。


(俺は勇者なんかじゃない……それなのに――)


 「勇者」という名が、ますます俺の肩に重くのしかかっていくのを、ひしひしと感じていた。

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