再会のリリア
「…………どうすんだ、これ」
女の体に入れられてしまった俺は、茫然と村へ戻ってきていた。
魔王に敗れ、男の体を奪われた勇者アレン。いまや世間的には「行方不明」。
だが、こうして帰ってきた俺を村人たちは――
「おや、新しい冒険者さんかい? 可愛らしいお嬢ちゃんだねぇ」
「どこから来たの? まぁまぁ、うちで休んでいきなさい」
……完全に「知らない女の子」として扱ってきやがる。
おい待て、俺だ! 俺はアレンだ! 勇者様だぞ!?
心の中でどれだけ叫んでも、誰も気づいてくれない。
そんな中。
「……アレン?」
声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは――
「リリア……!」
栗色の髪を三つ編みにした少女。幼なじみにして、俺の一番の理解者。
彼女だけは、俺の目を見た瞬間、迷いなく名前を呼んでくれた。
「なんで……わかったんだ?」
「わかるに決まってるでしょ。子どものころから一緒なんだから」
リリアが真剣な目で見つめてくる。
……ああ、救われた。たとえ体が変わっても、俺を「俺」として見てくれる人間がここにいる。
「でも……どうして女の子になってるの?」
「それは……魔王の野郎がだな……!」
説明をかいつまんで話すと、リリアは絶句した。
そして――
「アレン、ドン引きした」
「なんでだ!?」
「だって……“ハーレムを作る!”って魔王の前で叫んだんでしょ?」
「ぐっ……聞いてたのか」
顔を真っ赤にしてうつむくリリア。
……あ、これ、絶対笑ってるな。
「でも……いいよ」
「……は?」
「どんな体でも、アレンはアレンだもん。一緒に旅しよう」
そう言って俺の手を握るリリア。
――こうして、俺の“女体勇者+幼なじみ”という珍妙な二人旅が始まった。
「とりあえず……まずは村から王都へ行こうか」
リリアに手を引かれ、俺はしぶしぶ頷いた。
石像の体を失い、女の体で動けるようになったとはいえ、正直まだ全然慣れていない。
歩くだけでバランスがおかしいし、腰のラインを意識してしまって落ち着かない。
(ああ……この歩幅、なんか小股っぽくなるんだよな。ちくしょう、俺は男だぞ!)
リリアはそんな俺を振り返って、くすっと笑った。
「ふふ、変な歩き方」
「笑うな! 今の俺は不便なんだ!」
「まあまあ。――でも、よかった。生きてて」
その言葉に俺は息をのむ。
そうだ。どんな形であれ、生きてるだけでも奇跡だ。
このままくよくよしてても仕方ない。
「……よし。王都に行こう。魔王を倒すには、また一からだ」
「うん!」
⸻
王都の町にて
数日後、王都の大通りに立った俺は、改めて現実を思い知らされた。
「おお、新人冒険者か? 可愛いお嬢ちゃんだな!」
「宿を探してるのかい? 女の子だけの旅は危ないぞ」
通りすがる男どもがニコニコと声をかけてくる。
いや違う! 俺は男だ! 勇者だ! こんなチヤホヤされたいわけじゃ……いやちょっと羨ましいけど!
リリアはケラケラ笑いながら言った。
「よかったじゃん、すぐ人気者だね」
「黙れ。これは俺が望んだモテ方じゃない!」
(俺が欲しいのは……男として、女の子に囲まれてハーレムを築く未来だ!
そのためにも――絶対に元の体に戻らなきゃならん!)
拳を握りしめる俺。
胸が揺れてリリアに見られたので、慌てて押さえたのは秘密だ。
冒険者ギルドの掲示板の前。
俺は真剣な顔で依頼票を見つめた。
「……魔王を倒すなんて、いきなりは無理だ」
「うん」
「だが、小さなことから始めればいい。勇者アレン、ここに再起する!」
声高らかに宣言する俺。
しかし周囲の冒険者たちは、「お? 気合いの入った嬢ちゃんだな」と笑ってるだけだった。
(ぐぬぬ……俺は勇者だっつーの!)
そんな中、ギルドの受付嬢が歩み寄ってきた。
「ちょうどいい依頼がありますよ。最近、街道にスライムが出て困ってまして――」