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町での賑わい

 翌朝、俺たちは宿を出て、王都へ向かう街道沿いの小都市へと足を踏み入れた。

 石畳の大通りには露店が並び、果物や布地、金属細工まであらゆる品が声高に売られている。

 行き交う人々の熱気に包まれ、旅の疲れもわずかに和らいでいく気がした。


「わぁ……すごい!」

 ミュリエルが目を輝かせ、あちこちを見回す。

 白いローブは泥汚れがすっかり落ち、まだ新品同然の輝きを放っていた。

 少女らしい無邪気な仕草に、周囲の視線も自然と集まる。


「はぐれるなよ。人混みは盗賊やスリの巣窟だ」

 セラフィナが低い声で釘を刺す。

「はいっ!」と返事するミュリエルは、そのまま俺の腕にぴたりとくっついてきた。


「ちょっ……なんで俺に」

「だって……お姉ちゃんの隣が安心するんです」

「――っ!」

 思わず言葉を失う。


「お姉ちゃん……だって」

 リリアは口元を押さえて笑いをこらえているが、肩が震えているのを俺は見逃さなかった。

「リリア、笑うな」

「べ、別に笑ってないよ? ね、ミュリエルちゃん」

「えへへ……」


 そのやりとりを聞いていた近くの商人が、怪訝そうに俺たちを見やる。

「お姉ちゃん……?」

 耳ざとい通行人も、ひそひそと噂を始めた。


「今の子、あの冒険者を“お姉ちゃん”って……」

「いや、昨日ワーウルフを仕留めた連中じゃないか? もしかして勇者様の仲間か?」


 背筋に冷や汗が流れる。

(やめろ、勝手に勇者と結びつけるな……!)


 俺が焦る横で、リリアはにこやかに果物を品定めしていた。

「ねえアレン、お姉ちゃん。リンゴ買って帰ろうか」

「リリアまでっ!」


 露店の老婆が笑顔で袋を手渡してくる。

「仲睦まじい姉妹さんだねぇ。はい、おまけしておくよ」


「ち、違うんだって!」

 慌てて否定する俺の声など聞こえていないかのように、リリアとミュリエルは楽しげに果物を抱えていた。


 さらに広場に差し掛かると、音楽隊の笛や太鼓が鳴り響き、人々が踊りに興じている。

 その光景にミュリエルはまた目を輝かせ、俺の手を取って引っ張った。

「お姉ちゃん! 一緒に踊りましょう!」


「おい、ちょっと待っ……!」

 強引に引きずり出され、輪の中に放り込まれる。

 笛の調べに合わせ、男女が手を取り合い、足を鳴らす。


 俺も渋々、ぎこちなくステップを踏んだ。

(くそっ……なんで俺がこんな……!)


 だが、ミュリエルの笑顔はあまりに純粋で、次第に断れなくなっていく。

「楽しいですね! お姉ちゃん!」

「……ああ、そうだな」


 周囲の人々も、どこか好奇の目で俺たちを見ていた。

「やっぱり只者じゃないな」「勇者一行って噂、本当かも」――そんな声が背後から聞こえてくる。


 輪を抜け出し、息を整えた俺は、額の汗を拭った。

「……これ以上目立ったらまずい。宿に戻るぞ」

「えぇー、もっと見たかったのに」

 ミュリエルが唇を尖らせるが、俺は取り合わず歩き出した。


 その背後で、リリアが小さく笑ってつぶやく。

「ふふ……お姉ちゃん勇者。案外悪くないかもね」


「聞こえてるぞ!」

 俺の怒声が街角に響き、また周囲の笑いを誘った。

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