プロローグ 勇者、女体にされる
俺の名はアレン。
王国に選ばれし勇者であり、この世界を救う存在――になる、はずだった。
……だが俺には、ちょっとした野望があった。
世界を救う? 魔王を倒す? そんなのは当然。勇者に選ばれた時点で決まってる未来だ。
俺が本当に欲しいものは、別にある。
――それは、ハーレムだ。
可愛い女の子たちに囲まれ、毎日キャッキャウフフの桃色ライフ!
旅に出る前から俺はずっと夢見ていた。いや、むしろそのために勇者やってるまである。
「魔王をぶっ倒せば、俺のモテモテ時代が始まるんだ……!」
そう信じて俺は旅を続け、幾多のモンスターを斬り伏せ、仲間たちと切磋琢磨してきた。
勇者アレン、若干二十歳。人生これから! 未来はバラ色!!
……の、はずだった。
⸻
「下らぬ」
低い声が響いた瞬間、俺の体は雷に打たれたように硬直した。
漆黒の王座に座る、魔王。
その一言で、俺の胸に渦巻いていた野望があっけなく見透かされる。
「お、お前に何がわかる! 俺は……俺は理想のハーレムを築くんだあああ!!!」
自分でも情けない叫びだと思う。だが本心なのだから仕方ない。
魔王を前にした最終決戦。仲間たちは倒れ、俺一人。
その心の叫びは、最後の力を振り絞った咆哮だった。
だが、魔王は。
「勇者とは……かくも欲に塗れた存在か」
その口元に浮かんだのは、冷酷な笑みだった。
⸻
「貴様の望み、我が与えよう」
次の瞬間。
俺の剣は粉々に砕かれた。
石の波が体を覆い、足が、腕が、胸が……動かない。
「ぐ、ぬ……おおおおおッ!」
声を振り絞っても、全身は石に閉ざされていく。
石像と化した俺の意識だけが宙を彷徨う。
「永遠に叶わぬ夢を抱き、羞恥に溺れるがいい。器を変えてな」
魔王の手が振り下ろされる。
闇が、俺を呑み込む。
⸻
……そして目を覚ました時。
「……あれ?」
俺は立っていた。確かに立っていた。
だが、何かがおかしい。
視界が低い。手足が妙に細い。
声を出そうとすると――
「ひゃっ……?」
…………高い。
いや待て、まさか。そんなバカな。
胸に手を当てる。
むにっ。
「………………」
もう一度。
むにむにっ。
「………………………………は?」
俺の胸に……柔らかい感触があった。
信じられない。認めたくない。だが現実は残酷だ。
石化された俺の肉体はそこになく。
代わりに――
「お、おいおいおい……俺、女の体になってんじゃねえかぁぁぁぁ!!!」
⸻
華奢な手。細い足。腰のくびれ。
そして、否応なく揺れる胸。
なんでだ!? なんでこうなる!?
勇者アレン、俺の人生設計、完全にバグってるだろ!!!
「違う! 俺は! 俺は男なんだ! これじゃハーレムどころか……百合ハーレムじゃねえか!!!」
空虚に響く俺の悲鳴。
魔王の笑みが、頭から離れない。
――こうして勇者アレンの、“女体ハーレム修羅場ライフ”が始まったのだった。