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第8話

いつだって、私は1歩出遅れる。

あの時もそう。

本当は、私が話しかけようと思っていたのに。


あの頃の私は引っ込み思案で、あまり人と話す事がなかった。

無口だった私は、クラスメイトからよくからかわれていた。

そんな時の逃げ場が図書室だった。


休み時間は毎日図書室で過ごした。

私の通っていた学校では図書室はあまり人気がなく、ほとんど貸切状態だった。


毎日通い続けた結果、見事に本の虫になった私はある日、彼を見つけた。

クラスメイトの男の子で、名前は黒瀬 泰志君

私をからかっていたクラスメイトとは違って、いつも一人で居る子だ。

最初はたまたま来ただけだと思った。

でも、次の日もそのまた次の日も、彼は同じ席に座って本を読んでいた。

あまりに毎日来るものだから、いつしか私は、彼が居ないか確認するようになっていた。

今日はいるのかな?

明日も来てくれるかな?

そうやって毎日考えていた。


一度だけ、勇気を出して彼の隣で本を読んだことがある。

彼は気にも止めていなかったけれど、不思議とそこは居心地が良かった。

そして気づいた。

私は、彼の隣に居たいのだと。

彼に、黒瀬 泰志君に恋をしているのだと。


それから毎日話しかけようと試みた。

でも、勇気が出なくて、結局休み時間は終わって、教室でも話しかけられなくて、それが何日も続いた。


そんな時、きっかけを見つけた。

(これだ!)

そう思った。

私がよく読む本のシリーズの1冊目、それを泰志君が借りている事に気がついた。

その後の巻も借りていた事を確認して、泰志君もこのシリーズを好きなんだと知った。


これを理由に話しかけよう!

そう思って、その本を持って、彼の座っている席に向かうと、



 「何の本を読んでるの?」



そこには、クラスの人気者である木下 楓ちゃんの姿があった。

私は、話しかける事ができなかった。


それからも、楓ちゃんは毎日図書室に来た。

泰志君の隣に座って、泰志君と本を読んでいた。

数日後にはもう一人男の子が増えていた。

名前は土谷 翔哉君と言って、クラスのガキ大将のような存在だ。



 「海星さんもこの本好きなの!?」



泰志君に話しかけるタイミングを逃した私は、結局楓ちゃんに泰志君がよく読んでいるシリーズを手に取っていた所を見られ、仲間に入れてもらう形になった。

この時既に、私は負けていた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

それから、私達は4人で過ごすようになった。

私は、泰志君のことを泰ちゃん、翔哉君のことを翔君と呼ぶようになった。

楓ちゃんはとても優しくて、明るく私達を照らしてくれる。

そんな、太陽のような子だった。



 「待ってよ、泰ちゃん」


 「あんまり離れると迷子になっちゃうぞ」



泰ちゃんは、背の低かった私のことを妹のように扱った。

お祭りやモールなどの人混みに出かける時は、手を握ってくれた。

それがたとえ、妹のようにだとしても、私は嬉しかった。

いつも泰ちゃんを見ていた。

だから、すぐに気づいた。

多分、泰ちゃん自身が気づくよりも早く。

泰ちゃんが楓ちゃんを好きだということに。

そして多分、楓ちゃんも。


大好きな泰ちゃんと大好きな楓ちゃんが想いあっている。

嬉しさはあったけれど、少し悔しい気持ちもあった。

だからつい、考えてしまった。

もし、私が先に話しかけていれば

もし、楓ちゃんがいなかったら

泰ちゃんは私を好きになってくれいたかもしれない、と。

考えてしまったのだ。


そんな考えが過ぎった頃、あの事故が起きた。

泰ちゃんのおかげで、私は助かった。

けれど、目の前で楓ちゃんが死んだ。


あの時、あの瞬間、泰ちゃんの時間は止まった。

私が、あんな事を考えてしまったから。

私のせいで、泰ちゃんを縛ってしまった。

私のせいで、楓ちゃんがいなくなってしまった。


 (私のせいで……これは、私の罪だ)


私は決めた。

楓ちゃんのようになろうと。

楓ちゃんのようになって、せめて泰ちゃんが笑ってくれますようにと。

頑張ったのに。

それなのに……



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



久しぶりに行くお祭り

本当は、泰ちゃんと2人が良かったけれど、きっと私とじゃ泰ちゃんは笑ってくれない。


奏ちゃんは、楓ちゃんとよく似てる。

容姿や声だけじゃない。

性格も、雰囲気も、まるで楓ちゃんが成長した姿を見ているようだった。

私の猿真似とは違う。

多分、2人は根っこの部分が似ているんだ。

2人とも、太陽のように周りを照らしてくれる。


奏ちゃんと2人なら、泰ちゃんはきっと楽しめる。

あの頃のように、笑顔になれる。

だから、わざと遅れて2人の時間を作った。

大丈夫

泰ちゃんが笑ってくれるなら、隣に居るのが私じゃなくても。

そう、思っていたのに。



 「取らないで!」



2人が手を繋いで歩いていた。

そういう事もあるかもしれないと、覚悟していたはずなのに。

気づいたら、叫んでしまっていた。



 「咲希ちゃん……」


 

奏ちゃんが困った顔をしている。

まだ間に合う。

顔を上げて、冗談だって言えばいい。

けれど、一度出たそれを、止めることはできなかった。



 「なんで!?どうして!?いつもいつも私より先にいるの!?私が先に知ってたのに!?あの時だって、私が先に話しかけようと思ってたのに!私が先に、好きになったのに!」



奏ちゃんは何も悪くない。

全部私の責任、私の勇気がなかっただけなのに。

八つ当たりもいい所だ。

けれど、止める事はできなかった。



 「私だって、私だって、泰ちゃんが笑顔になれるように頑張ったのに!あの頃みたいにまた一緒にって、思ってたのに!どうして!」



私は顔を上げて、涙を流しながら訴える。



 「どうして!あなたがそこに居るの!」



私の息は荒れていた。

きっと奏ちゃんはわけも分からず困惑しているだろう。

いや、困惑どころか、理不尽な私に怒っているかもしれない。



 (せっかく、仲良くなれたのに)


 「!?咲希ちゃん!」



私は、2人の顔を見ることなく走った。

下駄だったせいで上手く走れない。

それでも、全力で走った。

気づいた時には、2人の声も姿も無くなっていた。

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