エピローグ
夏は過ぎ去り、吐く息が白くなった頃、僕は図書室で耳にイヤホンを付けて勉強に励んでいた。
進学を選んだ僕は、今まで遅れていた分を取り戻すかのように勉強している。
イヤホンは集中するために付けているだけで、何の音も流れていない。
それでも、周りの雑音をかき消してくれるのだから、優秀この上ない。
古典の勉強を終え、数学に移ろうとしたその時、誰かに肩をぽんぽんと叩かれる。
振り向くと、誰かの人差し指が僕の頬をぷにっと刺す。
「お待たせ」
咲希が少し笑いながら僕の頬をぷにぷにと触る。
「そんなに待ってないよ。勉強してたし」
「今日くらい休めばいいのに」
「遅れてた分、取り返さないといけないから」
僕は教科書とノートを鞄に仕舞い立ち上がる。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
僕は咲希と手を繋ぎ、図書室を出る。
「お!今日も相変わらず熱々だね〜」
「もう!からかわないでよー」
途中、クラスメイトにからかわれ、咲希が笑いながら言葉を返す。
楓のようになろうとした咲希は、今はそんな風には考えていない。
けれど、その頃にできた友人とは上手くいっているようで、コミュニケーション能力に関してはピカイチだ。
その点は、良かったと僕は思う。
「どうしたの?」
「いや、咲希は成長したなと思って」
「何それ?妹扱い?」
少し不服そうに咲希が頬を膨らませる。
「いや。僕の彼女は可愛くなったなってことだよ」
「……泰ちゃんも成長したと思う」
「でしょ」
僕は咲希をからかうように言った。
僕の言葉に、咲希は顔を赤くしていた。
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「あ!2人ともー!こっちこっち!」
目的の場所に着くと、既に翔哉と奏は到着していた。
奏が大きく手を振りながら僕と咲希を呼んでいる。
「手を繋いで来るとは、相変わらずラブラブだね〜」
奏がからかうようにニヤニヤとしている。
僕は慣れた様子で流し、咲希は恥ずかしそうにしている。
「馬鹿言ってねえで、さっさと行くぞ」
桶と花を持った翔哉がそう言って階段を上っていく。
その後ろを、僕ら3人もついて行く。
「それにしても、随分遅くなっちゃったね」
「仕方ないよ。最近は色々とあったから」
夏に言っていた、奏を含めた4人で楓のお墓参りに行く話があった。
文化祭や修学旅行と、何かとイベントが重なり、結局今日まで来ることができていなかった。
「やっと会えるんだね。楓ちゃんに」
「会えるって言っても、見える訳じゃねえけどな」
「もう!そうやってすぐ場を乱す!」
翔哉の言った言葉に、奏が怒る。
この光景も、今では日常になり、僕と咲希は笑って見守る。
階段を上りきり、右から4つ目のお墓。
それが楓の墓だ。
楓の父親である楓真さんが普段からよく掃除していることもあり、僕達が映るほどに綺麗だ。
「楓、悪いな。来るのが遅れちまって」
そう言いながら、翔哉がお墓にお湯をかける。
(ん?お湯?)
「翔哉、何でお湯なんだ?」
「そりゃお前、もう12月だぜ?冷水じゃ寒いだろ」
翔哉はあくまで親切心でやっているようだが、何だか心配になった僕らは、携帯で調べてみる。
そこに出てきた説明文を見て、僕らの顔は青ざめる。
「翔哉!お湯かけちゃダメだって!」
「え!?マジか!?」
慌てて冷水を用意し、お湯をかけるのをやめる。
慌てふためきながら、何とかお墓をもう一段階綺麗にできた。
先程よりも光沢が出ている。
「翔哉君は今後お墓の掃除は禁止にしよう」
「クソっ!今回ばかりは言い返せねえな」
「まあまあ、お墓に何事も無かったんだし」
気を取り直して、僕らは楓のお墓の前で手を合わす。
目を閉じて、心の中で楓に話しかける。
数秒して、全員が目を開ける。
「楓、こちらが森川 奏さん。僕らの友達だ」
今度は声に出し、泰志が奏を紹介する。
「彼女のおかげで、僕らはまた集まれたんだ。楓に紹介したかったんだ」
「初めまして楓ちゃん!森川 奏です!」
奏はお墓にビシッと敬礼をする。
「あなたが押し切れなかった3人の背中を、ビシバシと押していきますので、ご心配なく!」
そう言って奏は、楓に笑いかける。
そんな奏を見て、僕たちも自然と笑みがこぼれる。
「楓、僕らは幸せになるよ。楓に沢山の思い出話を持っていくために。楓の分も生きて行くよ。だから─」
僕は流れそうになる涙を堪えて言う。
「だから、僕らを見守っていてくれ。いつものように、笑顔で」
その時、春風のような勢いで風が吹く。
冬に吹く風にしては、妙に暖かった。
「……楓の返事ってか」
翔哉がボソリと呟く。
「……そうかも」
咲希も笑って言う。
「そうだといいな」
そう願いながら、僕らはもう一度お墓に向き直る。
「じゃあね楓。また来るよ」
泰志が言うと、また風が吹いた。
その風も暖かく、僕らは本当に楓の返事なんじゃないかと、笑顔で言った。
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「帰りにどっか寄ってくか?」
「うーん……ケーキ屋とか?」
「何でケーキ屋?」
「だって!もうすぐクリスマスだよ!クリスマスらしいことしたいじゃん!」
「だからってケーキを食べるのがクリスマスなのか?」
「いいでしょ別に!いいですねー泰志君は、可愛い可愛い恋人がいてー!」
「な!?べ、別にクリスマスだからって、特別なことは……」
「え?しないの?」
「いや!するよ!」
「クリスマスにするとか、泰志君やらし〜」
「なぁ!?」
そんな会話をしながら僕らは4人で帰路に着く。
もうすぐ訪れる、クリスマスの話で盛り上がる。
すぐに訪れる未来の話で。
僕らは『今』を生きている。
明日に向かって生きていく。
もっと生きたかっただろう、楓の明日を生きていく。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
本作はこれにて完結とさせていただきます。
今回は、好きな曲の歌詞をイメージした物語でしたが、いかがでしたでしょうか?
今まで書いたことのない感動系を書いてみたのですが、中々上手くいかないものですね……
それでも、面白かったと思っていただければ幸いです!
次回作も近々書き始めるつもりですので、
過去作、次回作共に、読んでいただければ嬉しいです!
最後に、繰り返しとなりますが、ここまで読んでいただいたことには感謝しかございません!
本当にありがとうございました!
ご感想やご意見もまたお聞かせください!




