プロローグ
「何の本を読んでるの?」
彼女と初めて出会ったのは、小学校3年生の時
図書室で本を読んでいた僕に、彼女は話しかけてきた。
「別に、言っても分からないでしょ」
「分からなくても大丈夫!」
「どういう意味?」
「分かるまで勉強するから!」
僕が冷たくあしらっても、彼女はそう言って笑った。
その日から、彼女は毎日のように図書室に来るようになった。
僕がいつも座っている席の隣に座って、僕が読む本を一緒に見ていた。
クラスで人気者だった彼女の影響か、2人の男女も僕の周りに来るようになった。
内気な少女と、元気な男の子だった。
彼女と話して一年が経つ頃、僕らは仲良しの4人組になっていた。
それからは、毎日のように遊んだ。
僕も、本を読むばかりではなく、3人と一緒に外で遊ぶようになった。
4人で遊ぶのは楽しくて、時間の流れはあっという間だった。
小学5年生になった頃、僕は自分の気持ちに気づいた。
彼女の事が好きなのだと。
彼女の笑顔を見るだけで、幸せな気持ちで溢れることを知った。
ずっと一緒に居たい。
心からそう思った。
小学6年生の時、それは突然起こった。
「ねえ、グリコしようよ!」
4人での学校からの帰り道、彼女はいつものように笑って言った。
「そんな子供の遊び、誰がすんだよ」
元気な男の子が、呆れながら言う。
「そんなこと言って〜負けるのが怖いの?」
「な!?バカ言え!やってやる!」
彼女の挑発に、男の子は簡単に乗る。
そんなやり取りを見ながら、僕ともう1人の女の子は笑っている。
いつものやり取り、いつもの光景、変わりない幸せな時間。
その時、それは起こった。
「危ない!?」
大人の叫ぶ声が聞こえた。
道路の方を見ると、一台の大きな車がこちらに近づいてきていた。
僕は咄嗟に、隣に居た女の子を庇った。
ガシャンッ、と大きな音を上げて、車は隣の建物へと激突した。
「大丈夫!?」
「う、うん……」
僕と少女は、軽いかすり傷で済んだ。
間一髪で避けたからだろう。
すぐに周りを見渡すと、男の子も無事であることが分かった。
大人が駆け寄って、安否を確認している。
そこで気づく。
彼女が居ないことに。
「たっくん、あれ……」
隣に居た女の子が、車の下を指さす。
そこには、赤い血が止まることなく流れ続けていた。
「そん、な……」
この日、木下 楓が死んだ。
小学6年生の12歳という若さだった。
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後から知った話だが、あの事故の検証の結果、僕と僕が助けた少女の立っていた位置は、何もせずとも巻き込まれずに済んだそうだ。
つまり、僕のした行動は、無駄な事だった。
あの時、僕が楓の方へと走っていれば、楓は今も僕の隣に居たかもしれない。
僕ら4人で、一緒に居れたかもしれない。
「……天国は、幸せな場所だろうか」
空を見上げながら、楓を思う。
あれから5年
僕、黒瀬 泰志の時間は、あの頃から止まったままだ。