懐古の記憶
宿場町の裏路地には黒マントの怪人が風船を子供に配っていて
人生という名の旅は己を見つけることかもしれない
昭和の日に還りたくて夏の日にあの開かずの扉の前に居る
故郷の詰まった匣の中には赤子の臍の緒が這入ってゐる
温泉街には時折黒い影が混じりひそかにお湯の中でぼんやりと輝き
昭和は何処へ
大人になるにつれ子供の頃に戻りたいと願う
タイムマシンは発明されませんでした
家族の遺影が増える度
仏壇の前の念仏を唱える黒い影は色濃くなってゆく
庭の石灯篭に灯りを灯して
ひとりで地獄参り
鬼門の方角に開かずの戸があるんです
蔵の裏のほうから人魚の歌声が聞こえる
風はただ
古時計の秒針は刻一刻と
私達を死への時刻へと運ぶ
夢のようなあの夏へと記憶は飛ぶ
箪笥の中に置かれた蝉の抜け殻と
豆電球に照らされた祖母の遺影が
あの日のぬくもりを思い出をこの胸に
遠い記憶の中でいにしへの過去が
五月雨となって降りしきる
現在と過去を行き来しつつ
脳内はホルマリンの香り
街角に亡霊が立ち托鉢をしている
雲水様は国語の授業でいつも百点を取る
いつの間にか授業に紛れ込んだお地蔵様が
虐められている生徒にあの夏の夢を魅せる
回送列車の中に閉じ込められる夢
幸福行きの寝台列車は
祭りの灯りを夜空に浮かべて
見よこの國は悲哀に満ちて
沢山の魂を常世に送ろうとして
過去と未来が交錯する
世界のねじれの部分に真実は隠されているという
真実とは人生だ
小さい頃に置き忘れてきた夜店の指輪
そんなものが悪しきものを遠ざける
人生は過去を映す写し鏡だ
幻灯機の中に紛れ込んだ黒い影が
今宵も鈴をそっと枕に忍ばせて
仏壇の位牌の後ろには
過去の自分が隠れている
街の陰影が心に暗い影を作る
其処に住み着いた小さな武士が
世直しをするとあの夏に旅立った
それ以来、胸に小さな穴が空いて
いつも悲しい雨が降っているのだった
神社の猫が過去へ旅立ちなさないと言う
仏壇の位牌を鞄に入れて私は遠い夏へと旅立つ
あの小さな武士を追って
街角はそんな私を嗤う
お寺で買ったお守りの数々
箪笥の引き出しの中にしまっておいたまま
忘れた頃に鈴の音が何処からか
雨の日に行方しらずの姉様
呼ばれたのは私ではなかったか
遠い記憶
夏はすぐ其処
バケツの底で金魚の顔が不意に嗤ったような
自分のものではない記憶が胸の奥から
滾々と湧き出てくる
人生の問いは
もう春ですね
亡くしたはずのたましひは
あの誘蛾灯の下でふらふら彷徨っているのだろうか
極彩色の巻物に血飛沫が飛び散っていて
昔の人は此れを守る為に苦労したのだろうか
蔵の中は春眠暁を覚えずといつまでも暖かい
鞄には遠い夏が入って居て
向日葵のキーホルダーを盗みに小鬼がやってくる
風の便りを待って
軒の下でそよ風に吹かれてる
人生はいつだって孤独のかけらたちがそっと心に宿る家
懐かしいあの面影を思い出して
夢ばかりではないけれど
たしかに今そこにあるまぼろし
微かな記憶と共に確かめに行こう
列車もそよ風に吹かれて目を細めている
旅路の果てには海の匂いの浜辺
春のキャベツ畑の中で春はじっとしている
家の角部屋にある開かずの戸の中で
黒い影は遠い昔を想って念仏を唱えて何百年目かのため息を
桜の花は寂しい神社の屋根瓦にもたれかかって咲いている
神様は嬉しくて夜になるとどんつくと太鼓を鳴らす
磯の香がする港には魚の死骸が懐かしさを想う香り
燈篭祭りに紛れ込んだ影ひとつ
回文を子供に耳打ちして廻る怪人が誰を攫おうと
懐かしいという感情がサイダーの壜に詰まっていて
仏壇の裏側には宇宙の真理が隠されている
あの呪いの札を剥がすと彼女は櫻に紛れて溶けてゆく
僕は祖父の書斎で真っ赤な表紙の本を見つけ
助けてくれと本の中から声がする
懐かしい匂いを感じて
悲しみをそっと撫でる風となる
学校の宿題はドッペルゲンガーに頼んだ
神社の裏の井戸に算数のバツばかりのノートを捨てると
お前は馬鹿だねと井戸の底から声がした
青空を追いかけてどこまでも自転車でゆく
夢日記は大人になる前に火にくべる
ノートから沁みだしてきた影を恐れ
廊下の奥に春が隠れていた
窓を開けると春はそそくさと出て行って
庭の枝木によじ登って櫻は咲いた
海のさざめきのように生きれたら
五時の同報無線が懐かしいメロディーを奏で
遠くで犬が遠吠えをしている
旅人がむくりと起き出して
カレンダーの裏の夏にお札を貼って
忌まわしきものは夏に出没する
世の中へのささやかな復讐の為に
僕は鉛筆の頭を仏像の形にナイフで彫った
明日来る終末にそなえて
仏壇の中で仏様は笑ってゐるかもしれない午前一時
旅人は壜の底で夢をみている夜を飲み干して
そっと夜になる怪人になる
きらきらと水面は光る光の粒を宝石箱に入れたくて
そっと虫取り網で海を掬う
薬缶の色が昭和を呼び覚ます
僕は夜店の金魚を掬うために
学校からこっそり持ってきたリコーダーで人魚の唄を唄う
春祭りにはあの世への扉が開くから
夜の宿場町をこっそり辻占を探して黄泉路への道を聞く
夢ばかり見ているので夜の闇に飲まれる運命です
春を閉じ込めた抽斗には蒲公英の花、花、花
僕のたましひは過去に取り憑かれて
あの荒れ野でずっと冷たい風に吹かれている
孤独とは真昼の田舎に転がっている
小さな蛍石の寝息かもしれない
懐かしさを求めて旅人は
子供だった自分を捨てきれずに
毎晩湯舟の中で小さなかたまりになっている
空が青いから黒マントの怪人は
宿場町の瓦の上で花占い
夕べは世の中が逆さになって
宿場町のお地蔵様が口から夢という夢を吐き出す
夜の電灯は警官のお化けになって
神社を踏み潰そうとするから
狐面の少年が笛を吹いて神社は櫻と共に掻き消えた
路地裏の辻占がお湯の中で極楽教を唄っている
町の子供達は秘かにその呪文を
ノートに書き写して先生に提出す
窓の外は夕暮れで一杯だ
夏を忘れない僕たちは
夜の神社の祠で地獄経を唱えている
夢ばかり追っていたから
早死にすることになりました
蔵の中は暗闇で満たされていて
時折木漏れ日が唄をうたう
どうして明日は過去じゃないんだろう
昭和の心は常夜灯に灯り
今宵も宿場町の裏路地で
大の字で眠っている
見知らぬ街の見知らぬ顔のドッペルゲンガー日陰を歩む
夏の香りのする夏蜜柑そっと口に含むと裏路地の香り
屋敷の中には何か居る寝ているといつも頬を撫でる影
彼岸桜の咲く頃にいつも逢いたくなる人がいる仏間の遺影の中
桜の花は死の香りがするドグラマグラには地獄が描かれていて
古い通りは人を追憶の過去へ戻すそれは迷宮の旅
古い日記には血の跡が身に覚えのない腕の怪我と部屋の隅の黒い影
夏は遠い揺り籠仏間の会ったことのない遺影の中の祖母の腕の中
風が呼んでいる遠い過去の闇を睨みつけて小鬼だった頃の自分
箪笥の中の見知らぬ着物と亡くなった姉の遺影庭に散る櫻の花
宿場町の裏路地には黒マントの怪人が風船を子供に配っていて
人生という名の旅は己を見つけることかもしれない
昭和の日に還りたくて夏の日にあの開かずの扉の前に居る
故郷の詰まった匣の中には赤子の臍の緒が這入ってゐる
温泉街には時折黒い影が混じりひそかにお湯の中でぼんやりと輝き
昭和は何処へ
大人になるにつれ子供の頃に戻りたいと願う
タイムマシンは発明されませんでした
家族の遺影が増える度
仏壇の前の念仏を唱える黒い影は色濃くなってゆく
庭の石灯篭に灯りを灯して
ひとりで地獄参り
鬼門の方角に開かずの戸があるんです
蔵の裏のほうから人魚の歌声が聞こえる
風はただ