第四部 行く
シン、と妙な沈黙が訪れた。しかし、イムは平然と靴を脱ぎ、二階へ上がって行った。私たちは顔を見合わせると、イムを追いかけて行った。
イムが迷わず向かったのは……ゼノの部屋だった。イムはノックをした。何で、会ったこともないゼノの部屋が一発で分かったんだ?
「懐かしい雰囲気だったのでな」
突然、イムがこちらを向いて返事をした。こいつ、私の心の中を読んでるのか?
「読心術などは持ち合わせておらんが、長年の経験で分かるのだよ」
とまた私の心の中の声に返事をした時、ゼノの部屋のドアが開いた。部屋から出て来たゼノは、冷や汗を書いていた。
「誰だ、お前。何で、こんなに引き寄せられるんだ?」
イムは微笑みながらゼノと目を合わせていた。しかし、イムはゼノから目を逸らした。
「流石に先程のものは、公平では無かったな。改めて話そう」
ゼノはイムを睨むと、ドアを閉めようとした。すると、イムはゼノに手を翳した。
「話だけでも、どうだ?」
「……全然フェアじゃねーじゃん……」
警戒しつつも、私たちはこのイムという男の話だけでも聞いてみる事にした。
「私はギルドから其方らの話を聞いてな。惜しいと思ったのだ」
シンは眉を顰めた。
「どういう事だ」
「其方らはどれだけ強大な相手を前にしても物怖じず、他力も借りながらとはいえ勝利している。だが、それは其方らの才能を全て出し切っての勝利では無い。そこでだ」
イムは澱みなく話し、私たちの入り込む隙を与えなかった。
「一年、本気で強くなる為に修行する気はないか?」
皆は固まった。一年?その間、フォニックスの業務は停止、更にツーハの学校だって休まなければならない。到底、現実的とは思えないのだが……。
「勿論、交渉は全て私がするつもりだ。だが、これはあくまで私が勝手に作った道。通らずともそれは過ちでは無いのだよ」
沈黙の末、口を開いたのは……ライトだった。
「俺は、行く。嘘じゃないんだろ?アイン」
アインは静かに頷いた。
「お、俺も。まだ、俺は俺の戦い方を完璧に見出せてる気がしないしな」
とエントが続くと、スインも、アインも、ツーハさえも、行くと言い出した。
「行くぞ、私も」
思ったより、自然に口をついて出た事に、私は自分で驚いていた。
シンはため息を付いたが、
「俺も行く。俺はこの馬鹿を見守らなきゃいけないしな」
とツーハを指差すと、ツーハは腹を立てた様だが、シンは気にしていなかった。
「俺は、こいつに負けたままじゃ嫌だ」
ゼノは私を指差した。