第三部 別に
ゼノはプリンとスプーンを持って中庭に出て行った。私は後をそっと尾けてみることにした。ゼノを攻撃して、プライドを傷つけたのも私な訳だし。
「……甘い」
ゼノは中庭の芝生の上に座り込んでプリンを一口食べた。それからは一瞬で食べ終え、容器を舐め始めた。そんなゼノの背後に、シンが近付いて来た。プリンに夢中だったゼノも流石に気付き、プリンの容器から顔を離した。
「こ、これは別に、仕方ないから食べてやっただけだ」
と顔を赤くしながらもシンにスプーンと容器を差し出した。シンはそれを受け取ると、ゼノに背を向けて、
「別に、俺はお前が好きでやった訳じゃない。作りすぎただけだ。……食べたきゃ自分で作ってみろ」
シンもまた赤面していた。
シンが中に入って行くと、ゼノは座ったままじっとしていた。
もう、大丈夫だろう。私も中へ入って行った。
翌朝。ゼノは無言で風呂場に行き、(男湯の様子は知らないが)存分に洗われた様だった。そのまま急ぎで用意した部屋で寝かせた様だが、シンとゼノが一向に起きて来なかった。
「ライトならまだしも、シンが起きてこないのは珍しいな」
とはいえ、情けをかけるつもりは無い。叩き起こす事に変わりはない。
意を決してシンの部屋に入ると、驚くことにシンがゼノを抱きしめながら寝ており、ゼノは捕えられたまま動けなくなっていた。
「おい、助けろ!」
「人にものを頼む態度じゃない」
「……助けて、下さい……」
私はテールハンドでシンをベッドからつまみ出し、床に置いた。
「痛っ!おい!」
シンは随分と機嫌が悪かったが、ゼノは胸を撫で下ろしていた。
「どうしてこうなった?」
ゼノが先に口を開いた。
「別に、トイレに行ったら間違えただけだ」
それにシンも続き、
「別に、俺は故意じゃない。寝相だ」
などと言っている。
「とりあえず、シン。ちゃんと起床時間守れ」
「へいへい」
なんだか、反抗期の子供を二人育てているみたいだ。
朝食はゼノもしっかり食べたが、日の光が駄目なようで、食べ終わると部屋に籠ってしまった。
日焼け止め、買っとくか……って、なんで私がこいつの面倒を見ているのだろうか。
などと思っていると、玄関のドアがノックされた。丁度ドアの近くにいたツーハが開けると、知らない人物がそこにいた。
長い黒髪、黄色の目。その人物は、一礼して、こう言った。
「初めまして。フォニックス。私は、放浪人のイムだ。其方らに、新たな可能性を提示しに来た。選ぶも選ばぬも、可能性の一つだ」