第三部 クモノイト
「……でも一向に、“あの力”が溢れて来ない。
やっぱり、そうなるよね。
あの力を“食材”するのには骨が折れるよ」
私、イムがしばし立ち尽くしていると、誰かが近付いてきた。
別方向から、二人。
「イム様、濡れてしまいますよ」
と、やって来たイネイが話した。
しかし、そこにはいつもの元気の良さは無く。
佇んでいる、という表現が似合っていた。
緩やかに上げられた口角や、淡い光を放つ瞳からは、感情を読み取れない。
「……どうしましたか?
──ああ、ギルド様の件、もう知ってますよ。
だって……」
イネイは一人でに話し始めたかと思うと、右人差し指を立てる。
指先から妖力で紡がれた糸が伸びていた。
「これ、ツムギさんの技なんですよ。“元々”」
「……意を得ぬな」
イネイの微笑みが、どんどん不気味なものに思えて来た。
「“地獄からの帰り道”。今の状況にピッタリだと思いませんか?
こうやって、死後の魂を繋ぎ止めておけるんです」
と、糸を指にしまっていく。
すると、ギルドの奥深くに溜まっていたであろう力の集合が感じられた。
ギルドの魂もこの一部になってしまったのだろうか。
「……これをどうする気だ?」
イネイは目線を魂にやる。
「それが、困ってるんですよね。勿論私は扱い切れませんし……」
丁度近くを野良犬が通ると、魂がスッと入っていき……耐えきれずに卒倒した。
「なので、ストキ様ともお話ししたいのですが……」
被せ気味に、上から人が降って来る。当然、ストキだった。
普段のポーカーフェイスを崩すことは無かったが、大方の状況を把握すると、手を合わせて暫し黙った。
ギルドの魂がフヨフヨと一回転した後、ストキは口を開いた。
「……そうですね。
イネイさん、あなたはどこまで出来ますか?」
話の意図が読めない。イネイには、私の知らない力があると言う事か。
「まだ亡くなってからそんなに経っていないので、ほぼ元通りに出来るかと思います。
どうしても、不自然さは拭えませんが……」
もしかして、いや、ほぼ確定だろう。
死者の蘇生。
無論、禁術と言わざるを得ない。
……だが、プロットを守るには、こうするしか……無いのだろうか。
ストキはゆっくりと口を開く。
「……本当は、このままの方が良いに決まってます。しかし……今ギルドの魂が放たれたら、大変な事になるでしょう」
それもそうだ。
だが……
それは、正しい事なのか?
ストキは初めて表情を見せた。
開いた瞼からは、浅葱色の瞳がのぞいていた。
下唇を噛みながら、俯いていた。




