プロローグ 忍び寄る天使
死とは何か。
勿論、体が機能しなくなった事、と言えてしまう。
しかし、私たちには第二の死がある。
「忘れられること」だ。
それは、一人の人間の“物語”が終わりを告げるという事と同義である。
これはフォニックスたちが旅立った後の、秋のこと。
……体が重い。
もう、抱え切るのは限界とでも言うのか。
私、ギルドは重い体を引き摺りながらも見回りをしていた。
真夜中とはいえ、月がある。
それを頼りに、歩き続ける事、五分。
「──やぁ」
始め見た時は、幽霊かと思った。
本当に、足が無く、浮いていたから。
ただ、どこかで聞いたような声だった。
「久しぶりだね」
相手は細めていた目を見開く。
虚ろで、何も写さない目だった。
「あの時キミに邪魔されてから、ボク、頑張ったんだから」
相手は首から下が布で覆われていた。
しかし、そこから禍々しい妖気が溢れている。
スルスルと、蛇のように動く腕が何本も出て来た。
「忘れちゃった?元エムル、今はキリュウだよ!
まぁ、教えてもそんなに変わらないか」
普通の人に紛れていた面影などなかった。
幼い子供のあどけない顔がくっついているだけの、妖力の集合体。
もっと端的に述べれば、化け物。
「キミは、ここで死ぬんだから!」
キリュウは笑顔を浮かべながら、腕を一斉にこちらへ伸ばした。
翌日。
フォニックス本拠地。
私、イムはここに居候している訳だが……どうやら、向こう側も動きがあったらしい。
禍々しい、生ごみを集めた様な妖気。
それが、この街を通った跡がある。
本来なら、すぐに動きたいが。物事には優先順位というものがある。
イネイを殺させる訳にはいかない。よって、現場へ向かうことは出来ない。
「イムさん?どうしました?」
イネイは、私が窓の先を睨むのを見て、尋ねる。
「……いや、何でもない。今日は少し曇っている様だな」
そこにいるならともかく、妖気の跡だ。イネイらには感じられないだろう。
私の言葉を聞いて、ウーベイが
「午後から雨らしいです」
と、パソコンから目を離さずに返す。
今、ここに住んでいるのは、私、ウーベイ、イネイの三人に加え……。
「おはざーっす」
ツーハの弟だというシャラト。
後は穀物屋敷の者がたまに出入りするくらいだろう。
何気ない、静かな朝。
しかし、やはり。
“プロット”とは違う風に、物語が動き始めている。
だが、私のやる事は変わらない。
物語を歪める、異物を排除するだけだ。
「すまない。その午後から出かける」
と言うと、イネイは
「分かりました!」
と元気良く返事をした。




