第四部 追憶
ゼノはわがままだし、危なっかしい。その上、生意気だ。
でも、なんでだろうな、不思議と、迷惑だとか、疲れるとか。
そう言った感情を自分からあまり感じない。
休憩を終えると、俺が言う前にゼノは帰路についた。
「……今日は、全然修行出来なかった」
と、ぽつり。
やっぱり気にしていたらしい。
真っ白なまつ毛が伏せられる。その表情に、妙な既視感があった。
「その代わり、ゼノは明日も頑張れるだろ?」
「それは、全員そうじゃねーか」
「……まぁな」
俺はどうやら、慰めるのが下手らしい。言葉が続かない。
「まぁでも、俺が突っ走ってこーなったからな、今回は謝る」
「……なんだそれ」
あまりの偏屈さに、思わず吹き出してしまった。
「人が謝ってるのに、どーゆー態度だよ!やっぱ謝んねーぞ!」
それを言うなら、そちらこそ態度は悪いだろう、と心の中突っ込むが……もう諦めている。
ゼノはそっぽを向いた。まだ小さい体を、めいいっぱいに捻っている。
だが、歩みは止めない。
全く、怒っているんだかいないんだか。
互いに無言だったが、別に心地悪くは無かった。
向こうも放っておいて欲しそうだったしな。
しばしの沈黙の中、俺は、徐に遠い、遠い記憶を思い出した。
『おーい、遅いぞー!』
これは自分の声。相手の声も、顔も忘れてしまった。ただ、この日の雨の匂いは、よく覚えている。
ぼんやりとした記憶。
ただ、はっきりしているのは、俺を後ろから追いかけていたそいつのまつ毛が美しかったこと。
まだ、そんなにひどく忘れた訳では無いらしい。ただ、故郷を捨てた自分にとって、この記憶に意味はないのかもしれない。
「い!……おーい!聞いてんのか!」
ゼノの声で、ハッとした。
どうやら、随分と夢中で記憶に浸っていたようだ。
もう家に着いてしまった。
「何だよ、急にボーッとして。早く行くぞ」
「ああ」
まさか本当に一言も交わさず帰って来てしまうなんて……反省しなければいけない。
帰ると、クオが料理をしてくれていた。
「ありがとう、助かる」
そう話しかけると、クオは目を細めた。
「なんか、疲れてる?たまには気を休めないと」
「休まるも何も……反射で心配してしまうんだ」
「ふぅん」
クオはエプロン姿のまま近づいて来た。
「リーダーってさ」
「何だ?」
「……やっぱいいや。面白く無いし」
と思えば去っていく。よく分からない奴だ。
ただ、疲れた。仮眠を取ろう。
俺は自室に入り、ベッドに身を預けた。
しかし。
「リーダー。今日の依頼の会計なんだけど」
フィラ。タイミングが悪すぎる。




