第五部 二百年ぶり
フォニックスたちが奮闘している中、私、ギルドは来客と話をしていた。
絹のような黒髪は肩甲骨の辺りで切り揃えられ、琥珀のような瞳でこちらを伺うその姿は、いつ見ても変わらない。
「お久しぶりです。イム様」
イム様は軽く微笑むと、
「百年ぶりでしょうか?」
と恐ろしく長い時間の話をし始める。しかも、これは冗談ではない。
「いえ、二百年です。海の方を回られていたのですか?」
「そうでしたか。時の流れは早いですね。……海の方で百年過ごしたのは事実ですが、あまり人には会いませんでしたね」
とイム様は俯く。
百年を平気ですっ飛ばす人は一万年は生きられる身体機能を備えていると言われている私たちの世界でもまぁいないだろう。
つまり、イム様はもっともっと昔、それこそ億単位で生きている人だ。人に会わなかったというのは、きっと既に亡くなられていたのだろう。
「しかし、貴方と三回も会えるとは正直思っていませんでした。わざわざ狐の国に寄った意味はあったようですね」
「生きているだけで褒める人はあなた以外そうそういませんよ。特に、私は」
「そうでしょうか?」
イム様はそう言って笑っているが、その姿も神々しく、後光が見えている様だった。
「出発はいつの予定で?」
「今日はここに泊まって行こうと思います」
「野宿はしないで下さいね?」
「良いですよ、私はただの放浪人です」
「いや、そこだけは譲れません。前回はそう言っておきながら出て行ってしまったではありませんか」
「……」
神々しいが、割合純粋で、押しに弱いのもイム様だ。
「良いですね?」
「……はい」
私がイム様の寝室の準備をさせ、応接間に戻って来ると、ストキとスラキがイム様と話していた。
スラキはゼンマイ仕掛けの玩具の様な動きをしていたが、イム様はそれも面白がっている様に見えた。
「おや。すみません、お手を煩わせて」
とこちらに気付いたイム様が話しかけて来た。
「いえ、やったのは部下ですから」
「キルラさんは、良い意味で王族らしくないですね。聞きましたよ、フォニックスの事も」
どうやらストキは全て話した様だ。
「全然、強くなっていませんがね」
「ふふっ。それも愛らしいではありませんか。では、いっそ数年他所にやってはどうでしょうか?」
いきなりの提案に、私はどうとも答えられなかった。フォニックスが欠けても、キセキはいるので補填は出来るが、すぐに返事が出来ないのは何故だろう。
「返事は待ちますよ。ちょっと良い所を少し前に見つけたので」