第三部 正体
その後、俺はぼんやりと真っ暗な森の中で座っていた。
「おーい、危ないよー」
「……大丈夫だ」
「そう?危なかったら逃げるからね」
ここからでも、若干あいつの妖気を感じる……気がする。
それだけじゃない。
この妖気は……ツーハ?あのトカゲもいる。いるのは海岸の辺りか。地図アプリと見比べるとよく分かる。
その他にも、他のフォニックスメンバーの位置が透けて見える。なんだ、この感覚……。
試しに超音波を使ってみるが、さしたる変化は無い。
つまり、あの妖気を浴びさせられた結果、無理矢理妖気を感じる力が上げられたという訳か。
「もしかして、感覚範囲が広がった?凄いじゃん」
(いずれフィラにも届きそうな感じ♪)
「はっ?」
今、声が?
(聞こえた?やっぱさっきので研ぎ澄まされてるね。行ってみて正解だったよ)
「これって、どうやって喋ってるんだ?」
(いずれ出来るようになるよ。君の才能なら。でも、これで分かったでしょ?妖気の可能性)
妖気って強さを測るだけのものじゃなかったのか。
「イメージするなら、ファッション的な?強い人でも、一緒にいて不快じゃない時あるでしょ」
「じゃあ、俺が妖気から拒絶を感じたのも、何となくじゃなかったのか」
「そーそー。というか、シンくん、無意識に使ってたじゃん」
「それは……どういう……」
多分、影を使うのが普通の技だ。とすると……
「合体?」
「正解!」
「だが、仕組みが分からん」
「あれはね、まずシンくんが影の中のシンくんと入れ替わって……」
「ちょっと待て。順序がおかしい。合体が出来た時、俺はまだこいつを扱えてなかった」
「だから相手の中のシンくんのイメージが役だったんだよ。解除する時、君は君に戻れる」
「じゃあ、俺は今俺だが、影にもなり得るってことか?」
「そういうことだろうね。自分の体を能力で変化させられる人、中々いないんだよ?でも、その能力を利用すれば、君は文字通り、
“何者にでもなれる”」
「……は?」
「だってそうでしょ?でも、元の自分に戻れないリスクは込みだがら、片方だけ変えてる今がベストの状態だろうけど、影と交代すれば変わってるように見えるんじゃない?」
「今の俺は、俺と誰かのイメージって事か?」
だったら、それって……。
「……残念ながら、そういう事だね」
「……」
もしかして、元から俺は、「俺」じゃなくて、影だったのか?昔の俺の理想なのか?元の俺は、一体何処に……。
「でも、これだけは言える。今の君は君のものだ」




