第二部 不安
俺が動けないでいると、そいつは俺の顔を覗き込んでいた。
「よく見たら、良い面してんな。どっかで見たことあるような……。覚えてねぇけど、母親似だろ、お前」
俺は無意識にそいつを睨んだ。
「お前、案外威勢はいいな。面白ぇ。でも安心しろ。あいにく俺は満腹だし、お前ぐらいの奴は喰うまでもねぇし……」
そいつは俺の頬に右手を添えた。
「お前、フォニックスか?」
と尋ねて来た。
再び体が震え出した。怖さじゃない、怒りで。
しかし、手は離れない。
「当たりだな。じゃあ尚の事だ。あいつに怒られちまう」
「……なんで知ってる」
「なんでだと思う?」
「黙れよ。俺の知り合いの中にお前の知り合いが居るって事だな?」
少しの間の後、そいつは声を出して笑った。
「本当に面白いな、お前。初対面でそんな口効いてくる奴初めて会ったぞ。本当に、面白ぇ」
そいつは鼻先が触れる寸前の所まで顔を近づけようとしたが、ニアが俺を引き寄せた。
「おっと。お前、やるじゃねぇか。いいコンビだな。とりあえず、帰った帰った。俺の気が変わらないうちにな」
なんとか、最寄りの公園までたどり着いたが、これ以上飛ぶ気力は残っていなかった。
「どうだった?」
「……」
怖かったけど、なんで俺はキレそうだったんだ?
触られた頬が、まだその感触を残している。
「全然、届かなかった」
「ふーん……そうかな?ボクには、割と張り合えてる方に見えたけど?」
そんな訳が無い。あんなに安易と近づかれている時点で負けている。
「って言っても、納得しないでしょ、キミ。だと思って連れて来たし」
「……だが、あいつと戦うイメージが出来ねぇ」
「だね。俺もない」
「は?じゃあ、なんで「でも
「キミを逃すイメージは出来てた」
「それって」
命懸けで俺にあんな経験させてたって事か?コイツも相当、イカれてやがる。
「へへっ。でも、立派だよ。あいつ、人呼んで破壊神は、フィラも知ってて放置してるから」
あんな妖気の中、大抵の人間なら正気でいられないだろう。俺がそうだったぐらいだ。
「フォニックス、意外と有名なんじゃないの?」
「あんな奴らに知れ渡ってても、嬉しくねぇ」
「だよねー」
完全に、負けた。戦う前から。
俺はどうすれば良い?あいつに追いつける様になるまで、あと何年必要なんだ?
その時多分、俺の胸の中には不安が渦巻いていた。
「とりあえず、ご飯食べる?」
その時の弁当は、味がしなくて、その時は食べるという行為自体が作業のように感じられた。
少し投稿が遅れてしまったので、お詫びに二話連続投稿とさせて頂きます。
破壊神たちの話を他の所で連載しております。もし興味がある方がいらっしゃいましたら、是非お読み下さい。




