第五部 つながるみらい
「鈍い!鈍いぞセグレイ!」
セグレイさんの眉間に皺が寄った気がしたが、大丈夫だろうか。
「もともと職のある奴らを集めて蛮族の職業とも言われる戦士にさせるなど、いくら国とは言えいささか強引であろう。であればそれほどの意義があるだろう」
「随分と自信がおありのようで」
やっぱり怒っているのでは?
「その通りだ。あいつの考えてることくらい、簡単に読める」
「……そうですか。話を変えましょう。今の状態、どれくらい続くと思いますか?」
セグレイさんは引き下がった。師匠相手なら、正しい判断だろう。
「僕はあと二年ほどかと思います。おそらく、悪い方向で終わるでしょう」
師匠は僕を見て満足そうに頷いた。
「よく分かってるじゃないか。私もそれくらいだと思うぞ。あれこれ叩き込んだ甲斐があった」
「根拠は?」
「質問が多いぞセグレイ」
「場所と茶と菓子代と考えれば安いと思いますが?」
「……がめつい奴だ。相手方の状況的に、二年経たないと厳しいんだよ」
「?なんでしょうか」
「海の潮ってのは年単位で変わるんだ。それによって海産物の漁れる地域が変わってくる」
「それと何が……経済力ですか?」
「そうだ。今こっちに喧嘩ふっかけて来た奴らの国がある海域はハズレ状態だから、多分そんぐらい準備にかかるって訳だ」
それは、裏を返せば今度こそ確実に自分たちを潰しに来るという訳だ。
師匠は人差し指を立てた。
「でも、忘れんなよ。私の仕事は戦って死ぬ事だが、お前らの仕事は戦わずに生き残る事だ。特にギーヨ、お前が死んだら負けなんだよ。自分の身も守れない程弱く鍛えたつもりはねぇ」
……僕は、師匠の覚悟に気付いてしまった。
「分かりました」
セグレイさんも、静かに頷いた。
「じゃーな、ギーヨ。私がお前に言えるのはそれだけだ」
「ありがとう、ございます」
師匠はそう言い残して飛び去り、僕もセグレイさんに礼を言って帰宅した。
部屋に行く途中、キョウとすれ違った。
「おかえりなさい。……ギーヨ様、大丈夫ですか?体調が悪いのですか?」
「大丈夫ですよ?」
と何気なく言ったつもりだったが、上手く誤魔化せたかどうかは分からない。
もし、キョウが僕の弟と知っていて、そのように育てられていたら、縋る事も出来たのかも知れない。
でも、僕は一国の王だ。誰かに頼るとか、誰か一人の事で一喜一憂するなんて事があってはならない。
でも、今日は、今日だけは、少し考えさせて下さい。
師匠……言いかえれば叔母さんのことを。