第四部 迫るもの
約束の場所に着いた。
僕の目の前にいるのは、僕の師匠であるオムギさん。いつもの様に挨拶はして来なかった。
「……師匠、お久しぶりです」
彼女の姿を見ると、言いたい事が山ほど出て来る。しかし、事態はそうのんびりしていられない程深刻になって来ている。
「ああ。様子はどうだ?」
師匠は察しが良い。
「今のところ、表立っての行動はしていませんが、海岸の警備は増えました」
「そりゃ、確定だな」
「はい。彼らは、本気で僕たちを潰しに来るでしょう」
師匠は僕から目線を逸らし、
「場所を移そう」
と言ったかと思うと、見慣れない顔の男をつたで捕らえた。
尾行に気をつけながら、僕たちはセグレイさんのお宅へ向かった。
「お久しぶりです」
「邪魔させてもらうぞ」
「お久しぶりです。センクの件で、ご迷惑をおかけしました」
「まっさかセグレイがセンクの家出を許すなんてな」
師匠は相変わらず、こんな調子だ。
「オムギさん?口調に気を使うべきだと前も言った筈ですが。私なのでまだ良いですが」
「あー分かってる分かってる」
師匠……本当に心配です……。
「それはそうとして、セグレイさん。何か変わった事は?」
「この辺りでは特に。しかし、最近私達の階級からも戦力を集める方針が決定した様です」
やはり、各国がある程度の準備をしている様だ。本当に、光狐たちを先に抑えておいて良かった。相手をしている場合では無い。
「私の方から人を出すのはおそらく難しいが、もしかすると使えるかもしれない奴らはいる。そこは共有しておいてくれ」
僕とセグレイさんは頷く。
「そう言えば、フォニックスを兎の国に預けている様ですが、国として使う予定はあるのでしょうか?」
とセグレイさんは尋ねるが、師匠は首を横に振った。
「あり得ないだろうな。あいつらは戦力的にあまり足しにならないのもあるが、国王が出向く時民の心の拠り所になるだろうからな。
それに、あいつらが戦う敵は他にある」
セグレイさんは
「もしかして、研究所の事ですか?彼らの戦力で行っても意味があるかどうか……」
と少し早口で言った。
師匠は自信気に、
「だからこそ、この二年間を研鑽に費やすのだ。あの方が読み間違える可能性は限りなく低いだろうしな」
師匠ですら、“あの方”と呼ぶ存在。僕はまだ会ったことは無いが、きっと相当の強さか立場の人なのだろう。
「もし相応の強さになったとして、フォニックスを行かせる理由がありますかね?」
とセグレイさんが言っても、師匠の自信は揺らがなかった。