第二部 凡庸
「それでは、今日の僕は技を使いません。体術のみです。その状態で僕に触れたらあなたの勝ちです」
「でも、それは」
「不平等と言いたいのですか?大丈夫ですよ。あなたの成長に合わせてやる事を増やして行きますから」
私は頷いて、吹雪を起こした。この室内という状況を利用させて貰おう。
ドラセナさんはまだ立っているだけだった。私は壁に氷を張り付かせ室内を狭くして行く。そして、一気に近付いたが、案の定ひらりと避けられた。
でも、妖力的にこれ以上氷を出すのは控えた方が良いだろう。じゃあ、上手い事誘導するしか無いか。
右、右、右。次は奥。左に行ったら蹴る動作で阻止。そうやってどんどん隅に追い込んで行き、触れようとしたが、ドラセナさんは背後の氷を壊し、破片で私の目を眩ませた。その隙に、逃げられてしまった。
「まぁ、凡庸な発想ですかね」
何も言い返せなかった。
「今日はこれで終わり。チャレンジはまた明日、です」
ドラセナさんはいつもの調子に戻ると、瞬間移動ではなく歩き始めた。
「基礎体力も大切ですからね」
「はい」
「いい返事です。弟子が出来るって、こんな感じなんですね」
少し歩くと、ドラセナさんは自販機の前で立ち止まった。
「頭使った後の甘いものも、悪く無いと思いませんか?みんなには内緒ですよ」
ドラセナさんは唇の前に人差し指を立てる。
私はホットカフェオレ、ドラセナさんはオレンジジュースを買って飲んだ。
「アインさんは、何か戦士になるきっかけがあったんですか?」
「いや、始めは経理のつもりでフォニックスに入ったんですけど、気付けばみんなと戦いたいって思ってましたね。なんか、曖昧な動機ですけど」
「そうなんですか。良いですね。なんだか、眩しいです」
「ドラセナさんたちも仲良さそうな気がしますけど」
「いや、そういう意味じゃ無いんです。そういう青春らしさが懐かしいなと。昔はフィラさんとよく張り合ったものです。今ではもう勝てる気がしませんが」
「そんなこと」
「ふふっ。良いんですよ。アインさんは、どこ出身で」
「ええと」
「言い辛かったのなら、僕の失言ですね。すみません。単純に興味だけだったので」
「あの」
「はい」
「謝らなくても、良いと思います」
ドラセナさんは一瞬固まったが、また直ぐに微笑んんだ。
「駄目ですね、世渡りをしているうちに、染み付いてしまったのでしょうね、きっと」
「世渡り?」
「戦士にも色々あるんですよ。いずれ分かる時が来るでしょう」