第三部 根性
昼食の後、師匠は私から少し離れた所に立った。
「どんな方法でも良い。僕を一歩でも動かせたら合格。そっちは背中が地面に着いたら負けで良い?」
「ええで」
私は透明になって、距離を詰めた。師匠は容赦なく炎で自分の周りを囲んだ。私は水の弾丸でそれに穴を開け、中に入った。
すると、炎が私に近付いてきた。私はそれに構わず師匠に近付く。師匠はすかさず雷を落として来た。
それは私に直撃した。
全身が痛い。なんだか動けない。倒れなかっただけ良かったくらいだ。
師匠はトドメの大波を出してきた。動けない私は、そのまま当たりかけた。
でも、水の弾丸を地面に向かって放つことで跳び上がり、二発目を師匠に向かって放った。
その弾の行方は分からない。もう、そんな余裕は無かった。完全に体が痺れてしまって動かず、そのまま落下して行った。
師匠が受け止めてくれたが、勝ち負けすらもどうでも良かった。
「うっ、く、あっ」
苦しい。とにかく。
師匠が私の手を握ると、随分楽になった。
「力加減間違えた。さっきのは僕が悪い。だから、この勝負は明日に持ち越しって事で」
師匠は私をおぶって歩き始めた。
「重い、やろ」
「まぁ。でも、これぐらいの責任は取るよ」
否定しやんのね。でも、割と背筋あるのね師匠。見た目とのギャップが凄い。
「正直、最後のは驚いたよ。あの状態で動けると思ってなかった。ちょっと舐めてたかもね、フォニックスの根性」
師匠は少しだけ口角を上げる。
「君たちなら、本気で戦えるくらい強くなれるかもね。でも、僕が弟子にしたからには、君を一番強くしたいけど」
師匠は私を病院へ連れて行ったが、異常は無く、帰りは普通に歩くことが出来た。
そんな帰り道で、師匠は何も話さなかったので、こちらから持ち掛けてみることにした。
「根性があるのは全員かもしれやんけど、多分私よりももっと根性あるで、みんな。
でも、私を一番にしたいって言ってくれたんは嬉しいわ。期待には応えるタイプやし」
「……そう。その代わり、本気で練習させるから、付いてきてよね。効率が悪いのは嫌いだし」
「分かっとるって。お願いしますよ、師匠」
「師匠呼び、諦める気は無いみたいだね」
「やっぱりあかん?」
「……」
「沈黙は肯定ってことで」
「めんどくさい」
私が師匠師匠と呼び続けると、師匠はそっぽを向いてしまった。
こんな出会い方ではあるけれど、少しぐらいはこんな信頼関係があってもいいかなと思えるのは、フォニックスのお陰だ。




