第二部 作りもの
「分かった。分かったから、あと十分だけ……」
師匠の視線が痛い。でも、無理なもんは、無理やねん。
「じゃあ、分かった。もう君の体力と運動神経は置いておく。効率が悪そうだし」
師匠は立ち上がって何処からともなく的を持ってきた。
「やっぱり、長所を伸ばす方が先決か。
君がどれくらい凄いのか見たいし、この的に当ててみてよ」
師匠は的を上に放り投げた。的はくるくる回る。
これなら、手加減もせんでええ。
狙い定めて、速度的には、ここか。
私の弾は的の中心を貫いた。やっぱ、こう言うの気持ちええな。
「へぇ。やっぱり。速度は計算してるの?」
「まぁ、そうなんやけど、慣れて来たら感覚やな」
「君みたいなのが、いわゆる天才なんだろうね」
師匠の青い瞳が、私を骨の髄まで見透かす程の深さを感じさせた。
「羨ましいよ。でも」
穏やかな海のようで。噴火し損ねている火山のようで。
「僕は証明したいんだ」
海底火山みたいだと思った。
「天才を努力で超えられるって」
それも、深い深い。
「誰かが僕に与えたのは、そんなに多く無いから」
それを全部引っくるめて、綺麗な目だ。
たとえそれが、作られたものだとしても。私のものの様に、時折痒くなるものだとしても。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いとるよ」
「……僕の目をじっと見たレオンは、僕を怖がる。何でだろうね」
「さぁ?綺麗やと思うで」
その危うさと、深さが。
「そう。じゃあ、次は、特殊能力もちゃんと見てみたい」
そんな目をしているのに、冷め切った様な表情と、言葉の抑揚。
私は透明になった。
「本当に分からないね。じゃあ、動いてみて」
私はなるべく音を立てないように歩いた。
「音は出るのか。視覚と妖気だけかな。触れるの?」
私は師匠に近づく。師匠は私の腕を掴んだ。
小さい様で、案外しっかりした手。これも作り物だろうか。
「いいよ。解いて」
私は言われた通りにする。
「蹴りも出来るって本当?」
「そうやね」
「やってみてよ」
私は師匠の足目掛けて蹴ったが、シールドが阻んだ。しかし、シールドはヒビが入って砕けた。
「まさか、ここまでの威力とはね。本当に羨ましいよ。同時に、超えたくて超えたくて仕方がない訳だけど」
師匠は弁当を出した。
「もうお昼か。もうちょっと試したかったのに。まぁ、午後からでもいいか」
師匠はちょこんと座り、私にも渡して食べ始めた。
他の部分が作り物だとしても、その目だけは違っていて欲しいなんて、私の勝手な願いは口に出さない方が良いだろう。




