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フォニックス 白雪の戯れ  作者: ことこん
第六章 ミステリアスでもいい人
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第五部 老いてしまいたい

 それから、全員が帰って来ても、夕飯を食べても、エントがライトに怒られているのを見ても、風呂に入っても、髪を乾かしていても、ベッドに入っても、クオのあの顔が頭から離れなかった。

一体全体、仲間でも無い私にだけとっておきの技を見せ、過去を仄めかす様な事を言ったのだろうか。

私が返した答えだって、そう良いものでも無いような、凡庸なものだった筈だ。

考えてもわからない事だが、考えないと気が済まない。しかし、クオの事なんて何も知らない。

私はベッドから出て、ライトを点け、本でも読もうと備え付けの本棚を見た。

すると、一つだけサイズが手帳程のもので、思わず手に取って適当なページを開いた。

『今日は、シトシト雨が降り注ぎ、なんとも風流な日だった。私の心も、晴れないままだが。

あと何回、客を取れば、自由になれるのだろうか。

こんな事なら、老いてしまいたい』

その後もページを捲り続けたが、クオは体を売って金を得ていた様だ。

しかし、指でめくり損ねて大きくページを捲ってしまった所には、

『ようやく実家に帰れたが、もうここに居場所は無いらしい。

誰か、私を本気で愛して、連れ去って行って欲しい。

なんて、無粋か』

クオは、私に何を伝えたいんだ?

もしかして、私が半妖である事と関係しているのか?

『老いてしまいたい』

確かに、人間なら直ぐ老いる。

いや、待てよ。

もしかしたら、クオは私の逆だったのかもしれない。

私はこっちの世界で生まれ、人間の姿だった父と弟を見送った。

クオは向こうの世界で生まれ、自分と同じ見た目の人々がいる世界へ旅立った。

私は手帳の最後のページを開いた。

『この手帳を見ている人は、きっと、私と同じ半妖なのでしょう。

私は妖怪の父と人間の母親の間の子で、兎の耳と尾が生えた姿のせいで気味悪がられました。

紆余曲折はありましたが、在るべき世界に来られた事は、私にとって大変喜ばしい事ですし、家族も出来ました』

更にその下に、小さく書いてある文章があった。

『私はこちらの世界でも居場所を失いましたが、仲間に恵まれました。

私の幸せは、人間にも妖怪にも分からないものだと思います。

もし、半妖が他にもいるのなら、会ってみたい』

急に、心配になって来た。弟は、上手くやれているのだろうか。

でも、今の私には会いに行く資格が無い。

だから、せめて、クオと探して行きたい。

この妖力に溢れた世界で、半分人間の私たちが生きる術を。

一人よりも、二人の方が良いに決まっている。

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