第二部 暴走
市街地は閑散としていて、奇妙なくらい静かだった。
さらにクオに付いて行くと、半壊の建物が見られるようになり、全壊の建物が見えてくる事には巨大なハエが眠っていた。そう、ハエが。
「ハ、ハエーーー!」
と思わず叫んでしまい、ハエが起きてしまった。ハエは轟音を響かせながら上空へ飛び立とうとしていた。
「さ、行きましょう」
と言ったクオに手を引かれるままに、私はクモの脚に乗った。最悪の気分だ。鳥肌が立つのが自分でも分かる。でも、これも仕事だ。
自分の仕事を選り好みなんて出来ない。分かってる。分かってるけど、体が動かなかった。
「あらあら。落ちたら即死だから、頑張ってね」
ハエは私たちに気づいており、足を振り始めた。
私は一瞬手を話してしまったが、テールハンドで掴み直した。
一方、クオはジャンプで足から背中へと跳び移り、頭に向かっていた。
私はハエの複眼や節がどうしても怖くて動けていない。ああもう、何やってんの、私。
「怖くない、怖くない、怖くない」
私は自分で自分を殴った。
血の味がする。そして、知っている。血の味を感じた私は、違う自分になると。
「パーンチ」
私はハエの複眼をテールハンドで殴った。メリメリと、のめり込む音がしたら離し、もう一回。もう一回。もう一回。目がなくなるまで。
「ふふっ。次は逆だよね」
片目を失ったハエは空中でよろめき始める。足場はもう無さそうだ。仕方ない。私はまだ正常な方の複眼の上に跳び移った。そのまま、テールハンドで複眼を握り潰す。ハエは完全に力尽き、墜落した。
無事着地に成功したが、まだ昂りを抑えられない。目の前にあるもの、なんでもいい。なんでもいいから、壊したい。
私は衝動だけでクオに跳びかかった。
「あらあら。元気ねぇ」
クオは私を避け、テールハンドを受け止めて掴んだ。そして、そのまま私の腹に一発蹴りを入れた。
「グフッ……」
胃の中身が全部出てくるかと思ったが、ギリギリで飲み込めた。危なかった。
「ちょっとやり過ぎちゃったかしら」
クオは私の腹を心配している様だが、こちらとしては、暴走を止めてくれた感謝しかない。
「ありがとう、ございます」
「あら。どういたしまして。凄かったけど、制御できるようにならないと使えなさそうね」
「……」
「気を落とさないで。あなたの暴走のおかげで、こいつを倒せた訳だし。そこは胸張っていいわよ」
クオは誰かと電話し始めた。
咄嗟の判断で使ってしまったが、確かに、使いこなせればどんなに強くなれるだろうか。




