第四部 まだ上がある
二匹目にして、俺は立てなくなった。
「あ、大丈夫か?」
セイは俺を安全な所に運び、残りを全部やってくれた。
「なんか、力不足だった」
と俺が言っても、セイは首を横に振る。
「いや、俺、今までちゃんと鍛えて来なかったし」
その時の俺にしては頑張ってたつもりだった。でも、全然足りて無かった。
ここに来て、この事に気づけたのは不幸中の幸いだったのかな。
ルミさんに脚を回復してもらい、帰ろうとしていた時、
「おーい!」
とニアとシンがコウモリの翼で飛んでおり、ニアが話しかけながら降りて来た。
「ありゃ、お前こっちだっけ?」
セイはニアにそう返す。
「ちょっと寄り道しちゃって」
俺はシンを見るが、睨まれただけだった。相変わらず、無愛想な奴。
結局、シンの瞬間移動で帰る事になった。
夕食の後、兄者がズンズンと迫って来た。やっべ。昨日の嘘がバレた。さて、どうするか。
兄者はわかりやすい程怒っていて、なんか言って来たが、コナさんが仲裁に入ってくれた。ラッキーラッキー。
でも、ダメだった。セイも同じように怒り出し、俺の手を掴んで部屋に連行された。
俺は強制的に本気のホラー映画を見させられた。
もう、二度とこんな目には会いたく無い。
セイと俺はみんなより遅れて風呂に入った。
セイはそのまま部屋に行ったけど、俺は水を飲みに台所へ行った。
電気を付けると、シンが冷蔵庫の隣に座り込んで、俯いていた。表情は分かんないけど、なんか、変だ。
俺は兄者みたいに人の心が分かる訳じゃ無い。でも、話しかけた方がいい気がした。
「どうした?」
「お前には関係無い」
俺は自分用に水を入れたコップを渡した。シンは一気に飲み干し、突き返して来た。ようやく見えたシンの顔は、いつもみたいな険しさは無かった。
「……化け物だった」
シンはポツリと零す。
「今日、俺たちは強い奴にあった。戦った訳じゃねぇけど、もう妖気で確信しちまった」
シンは歯を食いしばる。
「勝てねぇ、って。そいつと俺の差すら、分からなかった」
シンの目が赤くなる。
「……ダセェな。全然、俺は強く無かった」
シンは再び顔を膝に埋めた。
「良いと思うぞ」
「は?」
気の利いた言葉かどうかなんて、分からない。でも。
「届かねぇから、俺たちは上をずっと見てられる。もっともっと、強くなれる」
「なんだそれ」
「俺はそんな奴がいたから、ここまで来れたと思ってる」
「……知らねぇよ。俺は寝る」
シンはそそくさと出て行った。俺はその背中をじっと見ていた。




