第三部 いい人
弁当を食べ終わると、俺はコナさんの案内で鬱蒼とした森にやって来た。
「走り込みと言っても、木々の枝を飛び移りながら私に付いてくるだけです。今日は初めてなので、流石に手加減しますよ」
と言いながら、コナさんは一回のジャンプで木の枝に飛び乗ってしまった。
「大丈夫ですか?」
と普通に木登りしている俺に話しかけて来て、一本の糸を垂らしてくれた。
俺は糸の強度に若干不安を覚えつつも糸を握り、引き上げて貰った。
「すげー……俺の体重でも全然行ける……」
「伊達に長く生きてませんよ」
無表情のままではあるが、褒められるのは嬉しいらしい。
「なんか、有名な話があるんですよ。地獄にいる人を糸で引き上げようとする話が。その糸は切れましたけど」
「そうですか。じゃあ」
コナさんは髪を耳にかけた。
「もし、仲間が闇堕ちしたら、引き上げるのは私ですね」
なんだか、コナさんが仲間想いの人情に熱い人に思えた。無表情でも、無感情では無いのかもしれない。
「コナさんって、いい人っすね」
「……そうですか?いい人っていうのは、他の命を大切にする人だと思いますけど」
「いーや、良い人っす」
「……早く行きますよ」
コナさんは俺を待たずに次の木に跳び移ってしまった。最悪またげば通れる距離だ。こういう気遣いが出来るのがいい人だと思う。
段々と間隔が広くなっていきはしたが、本当に少しずつなので問題なく跳ぶことが出来た。
「……良い人、やりますか」
と呟いたコナさんは、突如木から飛び降りた。俺もそれに倣う。
地上ではもはやなんの動物がどう組み合わさっているのか分からない程ごちゃごちゃした生き物が、少女にゆっくりと近付いているのが見えた。
怪物は大きく口を開き、少女に噛みつこうとしていた。
その怪物の後頭部にナイフが突き刺さり、怪物は苦しみながら暴れ始めた。
すると、もう一体同じような見た目の怪物が茂みから躍り出た。
「あー、番だったようですねー。どーしよー。守りきれませーん」
演技は下手だが、俺にこいつを倒せという事らしい。おそらく、こうなる事は分かりきっていたのだろう。
「よし、やるか」
メスだろうか。先程よりも声が高い。そいつは俺を見ると容赦なく食いかかって来た。突進は速いが、俺の速さなら避けられる。しかし、小回りが効くのか右に避けてもそのままの勢いで向かって来る。
「じゃあ」
俺は思い切り跳び、怪物の背に乗った。しかし、尻尾が蛇になっていた。油断も隙もない怪物だ。




