プロローグ 最低ライン
……シンだ。
長々とした準備も終わり、俺たちは遂にその戦闘集団の本拠地に向かう事になった。
正直、急過ぎてぼんやりとしたビジョンしかないが、軍隊を持たない国の唯一の戦闘集団がどんなものか、見てみたい気がする。
「よし!行くか!」
とライトは気合いを入れてるが、実際に瞬間移動で連れてくのは俺なんだよな。
俺は瞬間移動を使った。
戦闘集団の本拠地は、森の中にポツンと佇んでいた。見かけはちょっと大きめの二階建ての一軒家だった。
俺たちが外装を眺めていると、ドアが開き、ライトくらいの身長の男が顔を出した。その男はドアの向こうを向き、
「来てるよー!」
と仲間を呼んだ。そして、俺らに近付いて来た。
男は特別妖気が大きかったり、体格が良かったりする訳では無かったが、少し猫背だった。
「どうも。ドラセナです。皆さんの事は、噂になっていますよ。凄いですね」
とにこやかにお辞儀をした。
一見良い奴に見えるが、何か含みがあるかもしれない。俺たちは強くなりに来てんだ。こいつも何かしらの強さがある筈だ。
「失礼。思ったより早かったな」
と出て来たのはフォニックスの誰よりも身長が高いと一目でわかる程の大男で、兎の耳がついているのがおかしく思えてしまった。
他にもわらわらと出て来たが、彼らの前に一人の青年が立った。
「僕はフィラ。僕からはこの一年、何をするか説明させてもらう」
と何の脈絡もなく淡々と語り出したそいつは、妖気の揺らぎを感じさせなかった。
「イムに君たちのことは聞いてるよ。正直に言おう」
フィラはこほんと咳払いをした。
「君たちが今やっている戦いは、一見作戦を立てている様に見えても全員バラバラで個人技のゴリ押しでしかない。そんなんじゃ、すぐに限界が来る。君たちは他人に助けてもらってここまで来てるだけだ。正直、今の君たちは戦士の中でも最低ラインだ」
何だこいつ。だが、今にも飛び掛かろうとしているゼノを止めるので精一杯で、俺は言い返す暇が無かった。フィラはあくまで淡々と続ける。
「その上、君たちのポテンシャルはまだ発展途上。つまり、君たちはこれから個人技を極め、それで初めて連携すれば良い。というか」
フィラの目線が俺たちを射抜いた。
「戦いにおいて、常に相手を倒すのは、“自分”。それぐらいの気持ちで、相手を奪い合う。それぐらいの気持ちじゃなきゃ、本当の強さなんて生まれない」
相手を、奪い合う……。
「勝利への貪欲さ。それが君たちに必要なものだ」




