小話「独裁者」
小話「独裁者」
大広場を見下ろす大きな部屋は、少々小洒落た家具で飾られていて、広大なバルコニーまでついていた。その部屋の中央には、男が一人顎に右手を当てて、さながら探偵のように考え事をしている。側には秘書か執事か、口元にちょび髭を伸ばした白髪の老人が立っている。なにやら男は秘書らしき老人に相談事をしているらしい
「皆、いなくなってしまった。AもBもCも...首都には私と君だけ。あぁ、寂しいな。」
「しかしながら閣下、貴方様のお陰で、この国は大きく発展致しました。荒野が広がっていた東部地方は、今や我が国随一の農業地帯へと変わり、昔から水害の酷かった西部地域には、ダムができたお陰で水害知らずです。瓦礫の山だったこの首都は、今では人口500万人を超える世界一の大都市です。どれもこれも、すべて貴方様とお仲間方が苦労して成し遂げた偉業でございます。」
「それは、そうかもしれないが、私は……多くの者を地方へと左遷した。この政権内で首都に居るのは、私だけだ。私は何もしていない。努力したのは私が左遷した大臣達だ。私は、反対を押し切って彼らを無理やり左遷した、ただの独裁者に過ぎない。」
「しかし貴方様が、その多くの大臣を地方に左遷させたからこそ、大臣殿の活躍によって地方は潤い、首都への一極集中を防ぎ、この国は大きく発展したのですよ。」
「そうか?」
「ええ。」
「しかし私は…私はこの国を変えるために暴力という手段に出てしまった。私は10年前、戦争に負け腐敗政治の広がっていたこの国を変えるために、今の諸大臣と共にクーデターを起こした。クーデターは成功した。成功したのだが、代わりに多大な犠牲を払うことになった。多くのものが死んだ。私の親友だったMも、頭を撃ち抜かれて死んだ。私が革命などしなければ!彼は今でも生きていたかもしれない…」
「しかし貴方様がクーデターを起こされていなければ、今もこの国は世界一の政治腐敗の広がった貧困国だったかもしれません。貴方様は仲間を大事に成されるお方です。御親友のM様も、今のこの国を見て喜んでおられると思いますよ。」
「すまない、そう言ってもらえると助かるな。ありがとう、元気が出た。それでなんだが、私は総統の座を降りようと思っている。個人による独裁の時代は終わり、議会による民主的な政治がこの国をさらに豊かにすると、私は信じている。」
男は少し、間を開けた
「それでだがな…変な話だが、私が総統の座を降りるべきか否か、国民選挙で決めようと思う。」
「大変良いお考えだと思います。数十年ぶりの選挙に民衆もお喜びになられるでしょう。」
「はは、独裁者が自分が辞めるべきかどうか選挙で決めるとは、我ながら滑稽だな。」
「そうですな。閣下、そろそろお時間です。演説のご用意を。」
「そうだな、よし。」
男は立ち上がると、両手で演説用バルコニーへの扉を開いた
民衆で埋め尽くされた広場から一斉に、男へ向けて大きな歓声が沸き上がった
小話「独裁者」/終
どうも、Kitoと申します。今作が私の初投稿となります。何かと拙かったり読みにくい部分があったと思いますが、これから経験を積んで上達していくつもりですので、どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m