意識
一時間目、生徒たちが順番に教科書の英文法を音読する流れ作業を行っていたのだが。
ガラガラガラと、教室後方のドアが開け放たれた。
「すいません。遅れました」
退屈な授業の間隙を破ったのは、クラスに花を彩る綺麗どころ代表・綾森さん。
その辺の雑草もとい俺たちの視線に晒されるものの、ぺこりと会釈を交わすのみ。
「お前が遅刻するなんて、珍しいな。いつもの3バカだったら、納得できるんだが」
担任兼英語教諭の中谷が、教卓に肘をつきながら嘯いた。
「ひでー、それがセンコーのセリフか! 差別だろッ」
「江藤、去年もっとも遅刻した一年は誰だった? お前に人権などないと思え」
WAHAHAとクラスメイトたちの爆笑をかっさらった。
はい、中条高校にイジメはありません。健やかに心を育むがモットーですから。
綾森さんは江藤迫真のピエロなど意に返さず、さっさと自分の席へ移っていく。
徐に優雅な軌跡を追いかければ、なぜか彼女と目が合った。
「っ」
ムッと一瞥をくれるや、視線を外した綾森さん。
すぐさま授業が再開され、俺も黒板を見つめるばかり。
英文法より、学園のアイドルの心情を解く方が難しい。
やはり起こさなかったのがマズかったか……また俺、何かやっちゃいました?
転生しなくていいので、謝罪のチート能力だけ授けたまえ。
初手、土下座。話はそれからだ!