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休日登校

《2章》

 中条高校は、土曜がきっちり休みな進学校。

 生徒の自主性を重んじ、主体的行動を推奨するナントカーの賜物である。

 にもかかわらず、俺は朝から学校へ足を延ばしていた。


 ブランチ時に起床して、夕方までゲーム。アニメ休憩を挟んで、深夜までゲーム。向上心の欠片もないさとり世代の手本として、堕落と慢心を謳歌するはずだったものの、いかんせん平日と同じ行動パターンをなぞっていた。


「兄者が休日に登校とは、正気の沙汰じゃないぜ! ええい、乱心かっ」

「今、その説明の途中でしょうが! 話の腰を折らないでくださいよっ」


 梨央が震える手を必死に抑え、校門付近で病院が来い! と叫ぶ始末。

 妹と呼称される生物の恥ずかしい行動に、俺は目を伏せるばかり。


「今日は保健委員の仕事を押し付けられてな。渋々、土曜登校したってわけ」

「獏は美化委員じゃろ? あっ、ガチボケ野郎……これが老いか……」

「野郎はいらない。てか、よく俺の委員会知ってるな。話したことないだろ」

「たまに兄者、一人で校内のゴミ拾いしてるじゃん。その光景から思わず顔を背けたあたしって、心が弱いんだ……ごめん」


 リアルトーンで謝罪やめろ。

 別に、皆で和気あいあいなクリーン活動が性に合わないだけだ。協力して1時間より、独り30分で終わらせる方が効率的。早く帰った分、モンハンもポケモンもできるでしょ。


 委員会でも部活でも、中条高校にイジメはありません!

 悲しい業を背負った兄を慮り、そっと頬を撫でた梨央。


「今度はちゃんと言ってね。本当に面倒で億劫だけど、手伝うよん」

「本音を伝えられるのは、ある意味お前の長所だな」


 正直を伝えられるのは、ある意味お前の短所だな。


「茨養護教諭にパシリ扱いされててな。ちょっとした雑用がある」

「あのせんせーこの前、テニス部で怪我した子の処置とかやってくれたもん。兄者できっちり恩を返すぜッ」

「因果関係が皆無じゃない?」


 細かいことを気にしたら負け、と梨央談。

 俺たちはエントランスを抜け、下駄箱がある玄関口まで歩を進めていく。

 部室棟へ向かう梨央が立ち止まるや。


「さらばじゃ、兄者。今生の別れとは申すまい」

「はよ行け。テニスで青春して来い」

「あたしのアオハルサーブが完成した暁には、全国だって夢じゃない!」


 それって、必殺技かしら?

 テニスの印象って、相手の顔にボールをぶつけてまだまだだねとニチャるイメージ。

 紳士のスポーツとはよく言ったもの。いや、テニスとテニヌは別モンだっけ?

 久しぶりに、超次元テニス風異能力バトルマンガを読み返そうと思えば。


「久しいな、牡羊梨央」


 声の方を振り向くと、意外な人物が校舎ロビーで佇んでいた。


「およ? 祥子ちゃんじゃん。どったの~?」

「その呼び名は好かん。佐々木先輩と呼ぶがいい」

「お堅いですなー。もっとフレンドリーになったらモテるぜ、祥子ちゃんは」


 テヘペロ梨央に対して、佐々木は苦みを噛み潰したような渋面を作った。


「フン、そのように浮つく意味が分からない」

「梨央、佐々木と仲良かったのか? 全然知らなかった」

「愚兄と比べれば、今でも交流は続いてるんじゃよ」


 佐々木がメガネをクイっとかけ直せば、一瞬だけ目線を俺へズラした。

 しかし、あくまで彼女は我が妹しか認知しないと言わんばかりの塩対応。しょっぺ。


「私は風紀委員の所用があってな。目下、定期巡回の最中だ。お前の兄に問題を起こすなと伝えてくれ」

「獏なら隣にいるけど?」

「牡羊梨央、頼んだぞ」


 佐々木はくるりと身を翻し、三つ編みを揺らしながら校舎内へ消えていく。

 取り残された牡羊兄妹が同時に首を傾げた。


「嫌われたのかい?」

「多分」

「昔は仲良かったじゃん」

「おそらく」


 思春期ですな、と梨央がため息を漏らした。


「やれやれ、兄者のお世話なんて気が進まないぜ。ここは一発、土下座かましたれー」

「何を謝罪するのか、皆目見当が付かん。単に、グループが別れただけさ」


 小学生の頃仲良かったのに、中学で関係が切れた奴など結構いるだろ? 友達が少ない俺でも経験があるゆえ、皆は幾多数多のサヨナラバイバイを繰り返したはず。

 寂しい空気に包まれる中、過去は振り返らないと決意表明する間際。


「……あかねちゃん、どったの? ハヨ、ハヨー。うん、うん。てかあたし、今から部活だし。マジだるいよねー。うん、明日? 何それ、突然すぎてオモローじゃん。オッケー、平気平気。マブの頼みじゃん、全然迷惑じゃないって」


 あっけらかんとした表情で電話する梨央が、そこにいた。

 待ってやる義理もなし。そそくさと保健室へ向かう俺。


「え、明日は獏もいるよー。かわいこちゃんが来たら、泣いて喜ぶからさー。不肖の兄の相手してあげてくだせいっ。ほんと、あたしってデキる妹すぎて辛いなー」


 厚顔無恥。

 徐に脳裏を過った言葉に、俺は何か暗示めいたものを感じてしまう。

 ところで、梨央の奴。電話越しに俺の悪口で盛り上がっていないか?

 今更聞き耳を立てられず、背中で語る者ばりの雰囲気でこの場を後にするのであった。


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