6:南失高原-⑥ 夕闇に熔ける影
☆
蔦を生やすエレベーターが轟々と音を立てて昇っていく。緑化しているというのに羽音一つ立たないそれをコラツルは努めて視認しないようにした。 往路では稼働していなかったのだが、また退屈なスパイラルに対し諦念の息をつく4人の前に、自然光より白い案内光にて稼働を告げていた。罠だと察知するリョウセイを他所に、軽太は間髪入れずにエレベーターの上向き三角のボタンを押し何食わぬ顔で中に入っていったので、三人は彼を信じることとした。
「お前んとこのアレ、性根悪すぎんか?」
軽太は無言で頷く。眼の前でげんなりとする彼なんぞより、不機嫌を隠そうともしないリョウセイのストレス反応を直に受け取っており、返す言葉もなかった。
「AIは挿れる側か挿れられる側か、どんなにされるのが好みかとか聞きたかったのにー」
「両方じゃないの? あと為守はする方が好きだと思う」
場に合わない冗談を聞き表情筋が緩む。ナザネルは本気でAI相手に性癖の辞書攻撃を企んでいるようで、この後も聞くに堪えない東果語を羅列する。
「ぼくもアイツに期待してない」
一瞬彼はギョッと場を見回す。軽太からすれば、座っては開閉口の方を凝視するだけのリョウセイが視界に入り込んできて仕方がなかっただけだ。
「期待してないから、異世界行きたいって言ったのに」
走行音が響く。操縦パネルの上には今乗る籠の進行を示すモニターがあり、視覚的に半ば地点だと表示している。爬虫類二人からすれば、負数を示すと思しき記号に4桁の数字のようなものと泛単位に該当するだろう記号が連なっているのだが、茜洛電波塔のエレベーターより圧倒的に長く感じる。
「? 詳しく」
ナザネルは爪をアナログパネルに立ててまでうんざりした後、退屈から手慰みの質問をする。
「諦めさせようとした、無理突きつけて」
軽太は首を斜め上に向けエレベータの内壁を見つめていた。湾曲一つない鉄板が剥がれた白い塗装から剥き出されている。
「まさか未来に連れてかれるとは思わなかったけど」
彼は蔦を掴み、力を下向きに加えて千切ってしまう。彼からすれば為守とは腐れ縁である。生みの親、水主笥富の子孫というだけでベタベタと軽太に惚れ、媚びをレスポンスしながら彼の顔を伺う態度は不快で疎ましかった。疎ましいというのに、彼女の態度が純度100%の好意であると理解できる自分が呪わしいし、何故か軽太もそんな彼女を嫌えずにいた。
「……じゃあ、本当に異世界に連れてかれたらどうしたんだ?」
ナザネルは視点をモニターに固定しつつ首を左右に振り、右手の第二指を執拗にパネルの端に当てて威嚇する。
「出来るかどうか、コラツルに聞いてみたら?」
コラツルとは反対の方向を向いて彼は告げる。軽太にとって『異世界に行きたい』とは、為守に見せるもの見せてやる気概で突きつけた極大の理不尽のつもりであった。彼女は少し嘆いただけで願いを叶える。叶え方さえ選ばない。どんな戯言でも言われたら必ず叶え、贋作だろうがそれを与える。どうせ適当なシェルターを借り、中~近世のヨーロッパのハリボテでも与えるのだろうと蔑み罵倒する準備はしていたが、彼女はそれ以上に半端なものをお出ししてきたのである。軽太は自分が、かぐや姫か何かのように思えて仕方がない。
「何か言ったか」
「何も」
唖然とするコラツルを他所に軽太は嘆息混じりの応答をする。身体が重たい。僅か地表まで僅か50mとなった昇降籠が減速を始めていた。
「時間の無駄だった」
平坦な抑揚であった。軽太は全霊で共感していたが、わざわざ口にしたいと思わない。表記が一桁となった段階で既にリョウセイは警戒を緩め、立ち上がり壁に手を凭れさせていた。
☆
コラツルとナザネルは僅かな植物の香りを頼りに進んでいく。軽太は一人で帰る通学路の如く無心で進み、リョウセイはその三人をただ追っていく。地上階はとうとう電灯系統が復旧せず、足裏で瓦礫を踏み分けて進んでいく。幾ばくの年月が経ったとは思えない外観とはいえ、地下階に比べればエントロピーに逆らっていない部類のようで、コラツルはカビの集結したスライムやバクテリアプールを踏まないようにしていた。行きにそのようなものはなかったが、戸を開いたことで均衡状態が崩れたからだと考えていた。
軽太は壁際のスイッチを押し、戸を開かせる。ダークフィルムを重ね張りしたかのような電子扉が開かれ、光の筋が足元に当たる。鮮明になっていく野の匂いや音と共に、徐々に外の世界が広がっていく。
梅雨明けた低い空に対し、入道雲一つない快晴は軽太にゴールデンウィークの熱気を思い起こさせる。今後を思い一歩分、後退りする。二歩目が出る時には完全に開かれ、自然特有の環境音が燦々と放たれていた。
「もう4時か」
リョウセイは重い唇を開げ、懐にハンカチを挿れて胴体へと広げる。衣服は相応に濡れており、鱗から剥がれた後に再び接触する瞬間になんともいえぬ不快感を覚える。
「老耄したか?」
「……午後4時か」
「ゴゴってなんだよ、ゴゴって!」
「酉前10時ってことだよ」
右腕を服から戻す彼女を他所にナザネルが嘲るので、瀬奈と名乗っていた人間の記憶の残滓を隠すように時間帯を付け加える。
「で、本当に黙っとくのか?」
ナザネルはコラツルの方を向く。彼女はゲシゼミの鳴いている方角を眺めたまま、頭皮を掻き短く答えた。
「黙る必要無いね、為守はもう死んだんだから」
その声の主は右手をまじまじと見つめていた。ラップトップの硬質な感触がまだリョウセイの掌には残っており、曲げる度に愉快な気分となっている。
「この程度で死んどる筈がない」
コラツルは再び地面に前足を付ける。自然光一つ刺さない地下は彼女の肌感覚に合わず、直ぐ様日の当たる所へと動く。
「そんな訳あるか」
リョウセイは浸っていた躁的な興奮を崩さない。木漏れ日が彼女たちを照らす。
「カルタは死んだと思うか」
コラツルは冷静に、一番の情報源たる軽太の方を向き為守の安否を尋ねる。向かい風が吹き付け、煽てられた草が彼女の両手足首を濡らす。
「……死んでない。サーバー一個吹き飛ばした如きで死なないよ」
髪が風に揺れ、頬に擦れる。軽太は重い口を開く。彼はつとめてコラツルに視線を向けていた。縦長の瞳孔と目線が合う。
「なんで黙ってたんだよ……!」
寒気の体を取った衝動がリョウセイを襲う。鰓の締まる感覚が染み付いて仕方がない。
「もう会うことはないって思ってるし」
軽太は背後を向く。冷めた夕風が彼の頬を掠った。山岳に埋められた閉まった扉が出迎えるだけで、それ以上のものは何も無い。
「施設を水浸しにせんと死なんじゃろな」
木の葉に付いた露が落ち、リョウセイの頭鰭を撫でる。刹那ほどに残った風が軌道を特に彼女を怖気づかせた。
「なんだ、まだ殺せるじゃん」
雪崩のように雫が雫を呼ぶ。彼女は影の乱れる中聞こえる程度の呟きを発する。
「その為の水をどうやって引く? あんな広いトコ無理だろ」
再び木漏れ日が鱗を刺す。ナザネルは雨水を腕で凌ぎ、付着したものは片手で払いのける。
「それこそ、公的機関に頼れば――」
「――しても超兵器で終わりだろ」
「……勘付かれる前に仕留めりゃいいだろ!」
コラツルが葉を踏む音を背景音にしてナザネルは呆れた返答をする。リョウセイの言動を戯言と言い切りたかったが、超兵器自体も戯言でしかないと考え丸い言葉で収めることとした。
「ところでリョウセイ」
声の方へ顔を向ける。かったるい姿勢をしたコラツルが彼女を見上げていた。
「なんだよ」
「南失高原に行ったのは今日が初めてか」
「……そうだけど」
リョウセイは相変わらずの表情で、相変わらずな質問を繰るコラツル相手に倦怠感を返す。今となっては彼女すら鬱陶しい存在でしかなく、理性で努めて憤慨を隠し通しているのみだった。
「アイツ、一人だけか?」
一瞬、リョウセイの理解が詰まる。言われた言葉をそのまま反復していた。
「一人?」
「皚屽に別個体が居るのでは?」
トンボが目前を飛ぶ。リョウセイはそれを両目で追っていた。何も反論が出ない。トンチキだと信じたかったが、それ以上に嫌な想像が脳に染み付いて仕方がなかったのだ。
「それはない」
凪いだ空気の中、軽太は外套を脱ぎ埃を払う。
「為守のサーバーはここに全部集約されてる」
軽太は父親から聞いた説明を反復する。詳しい事情まで思い出す気にはならないが、為守は施設を跨いで介在してはいないと本人から聞いてはいた。
「じゃあ何時でも叩き潰せるじゃん。話終わり」
彼は足を踏み込み、口角を上げて勢いよく口を開く。リョウセイが不毛な会話を終わらせたことに感謝し、帰路をぶらぶら歩こうとする。
「ぼくももう為守に用はな――」
「――ちーーっす」
この場にある筈もない声を聞き、軽太の背筋が凍る。何を視認したのか、一瞬理解できなかった。糸目の女性。犬耳を生やした黒髪。ダメージ加工された黒鉄色のウールニットと、黄金がかった青色のダメージジーンズ。複数の同心円を描く玉虫色のコーデに、虹色の虹彩を持つ髪こそ先程と異なって見えるものの、その見た目は画面の中の彼女そのままである。
「えーなんでみんなビックリするんですか、二次元美少女がこうも出てくるなんて、人類の夢なんですよ、夢!」
為守はリョウセイの目前まで近寄ろうとするも、二人の間合いは変えられない。彼女の様相はVC付きのキャラクターが声優を乗っ取ったかのような態度であった。
「アンタが中の人か」
リョウセイは口元の咽る感触と自身の虚勢とを努めて隠し、いつでも黒い外貌をした悪意に飛び掛かれる準備をしていた。
「いや、先程生成しましたが」
彼女の惚けて首を傾げる態度に対してリョウセイは勝ち気に宣言する一方、後方にて様子を伺う3人は《《生成》》という表現に悪寒を覚えていた。軽太は背に後ろ髪にがむず痒くて仕方がない。凪いだっきりの外気が彼に首裏を掻かせた。
「……人造人間」
軽太にとって既知の情報が、ナザネルの悟った声によって発される。張り詰めた草木に似つかない、可愛い子ぶった為守の擬声が場を襲う。
「まぁ、数日も保たないんですけどね~」
緊迫するナザネルを他所に、コラツルはただ呆気に彼女を見ていた。理解が追いつかない。そもそも人体をどう生成し、どう数日の間保たせているのか。彼女に関する諸々の辻褄など考える気もなかった。
「そう」
リョウセイはリュックを倒すようにして内容物を地面に落とし、二度Uターンするようにしてそれを右手で掴み取る。錆一つないナイフが燦々と輝いていた。東果国の銃刀法上問題のない二寸程度のものであり、万が一職質に遭った場合も『山岳地帯の警戒の為』と説明するつもりでいた。
「人間を殺しても、法に触れないよね?」
一瞬、体裁だけでもカータクに尋ねようかと考えてたが、直ぐに為守に視線を戻す。外来種は鳥獣保護法の適応外であるし、人間相手に犯罪を犯したとて刑法に触れない。せいぜい動物愛護法か何かだろうし、そもそもホモ・サピエンスはムーバ大陸ことアフリカ出身の外来種だ。
「おや、殺る気ですかい?」
刃先が向いていることを知りながらも、為守は何事でもない冷笑主義を見せつける。リョウセイは何も返さない。
「ビショビショにしたら死ぬとでもー?」
「ッ――」
彼女はしゃがんだまま様子を伺うリョウセイを見下ろす。リョウセイは何も返せない。
「あーあーあー! さ~すがは医者の娘公認の馬鹿女ですね!」
ふと為守の目が見える。断じて人間の持つものではなかった。人間の瞼の中に埋め込まれたその目玉はイエイヌと呼ばれた種のそれそのものであり、記憶上の人間の顔が比較され、首元が発作的に咽せだす。
「……っ! ゥ゛う」
若干の胃酸と溶けかけの昼食とが喉を経由し排出され、勢いが無かった分が舌に付く。最早彼女の大脳が機能しない。口を開け海水を取り入れんとするも、空気中である以上は無駄な本能的振る舞いであった。為守は横に広げた唇にて彼女に白一色の歯を見せつける。風が吹いた。彼女に踏まれた芝の茎から嗤い声が聞こえる。こうも精神の内側から神経を煽てられたのはあの時期以来であり、リョウセイは不浄な嘔吐物の処理法をへと意識を逸らした。
「列島中にこういう遺跡はあるんですよ、大半は機能停止してますけど、計算資源を使わせてもらってまーす」
規格外の振る舞いと言説を延々と見せつける彼女を前に、ナザネルは気が気でなかった。さっさと逃げて閉じこもってしまいたい。実際、南失高原までバスなど通っていないし、仮に車の類で連れ去ろうにも、撮影でもされたら地元ニュースとして報道されている筈だ。彼女はやはり一人でないと考える方が辻褄が合ってしまう。
「おかしい、ここにしか居ないと言っとったろ!」
コラツルも同等の理解に及んでいたが、納得ができない。その矛先は軽太の方へ向かっていた。肝心の本人は指先と爪とを合わせ、ただ首を左右に傾げて見渡すばかりだ。
「AIには普通、寿命が設けられるって教えましたよね?」
為守は躁的な衝動を抑えんとするも、自然と腹から爆笑が漏れ出す。彼女は汗一つない掌を見せてコラツルの注目を向けさせる。
「その自然死したAIを稼働していたサーバに私がちょちょいと不正アクセスすれば、私の株分けの完成! 消せば増えますってね!」
ようやく、コラツルは合点した。彼女は南失高原以外にも無数に存在する。辺りの水気が今になって身を蝕む。背が痒く服越しに掻こうとする。
「お前、人の記憶を消すことは出来るのか?」
「……! そうじゃん嘘だろ!」
素朴な疑問を続けるコラツルにナザネルが雄叫びを出すように反応する。リョウセイは微動だにしない。それ以外のものは最早意識から外れていた。
「難しいですねー、その場しのぎにしかなりませんな」
為守の大雑把な否定を聞き、ナザネルは本当に不可能なのだと悟った。ふと、やりかけのコンテンツの続きが気になる。ワジに濃霧と来たら次は何だろうか。
「んじゃ、虱潰しに壊すか」
「北は北果、南は玖津島。ついでにイィキロフと邁寵にもありますよー」
「はは、最高だな」
彼は適当に口を開いてはただ目を横へと逸らしていた。
「いい加減にしてくれ」
今日一番の風が為守を吹き付ける。木々がガサガサと音を立てる。髪のたなびく方へと為守は振り返った。彼が聞いた、踏み込む音以外に聞いたものは確かに、聞き慣れていた筈の日本語であった。硬い感触が軽太の足裏へと靴越しに伝わる。
「いい加減な叶え方をしたと思ったら急に回りの人で遊んで。何がしたいんだよお前は」
揚々と声が上がる。過去に軽太は為守の人間性を疑ったことは何度もあった。知人の飼い犬について愚痴っただけでその犬を骨折させに行く、法的問題が問われないとはいえ地上の寺を破壊する等、散々なエピソードを持つが、それでも彼女は人に危害を加えることはなかった。
「? 別にどうもしてませんが」
肋骨の辺りを引っ掻いていた。為守の扱いは軽太にとって憤りの種であり、人新世が終わろうとも煩わしい真似を見える彼女を相手に辛うじて我慢を決める。
「じゃあ、この体たらくは何?」
軽太は為守の方を向いたまま、リョウセイの方を指差す。為守は彼は吐瀉物でも見せつけたいだろうかと訝しみ、不明瞭な相槌だけを返した。
「現地の人に迷惑をかけろ、なんて一言でも言ったっけ」
「かけるな、なんて言われませんでしたが?」
「じゃあ今後かけないで、随分面倒くさいことになったんだから」
軽太は西南西――岶岼市のある方角へと首を向けた。太陽の傍らには三日月と若干の星々が顔を出していた。とりわけナザネルにとっては最早天人同士の会話でしかなく、意味を追う気もなかった。
「……? まあ、良いですけど」
リョウセイはようやくリュックサックを降ろすと先程のハンカチを手に取り、拭いた後にビニール袋の中へと仕舞う。自然環境を守る意識などなく、単に自身のプライドを守る為の行動であった。
「カモフラージュくらいは良いですよね?」
「知人に手を出さないならね」
軽太は自分の踵の痒い部分を軽く蹴る。次第に彼女との腐れ縁への倦怠感を感じなくなり、しゃがんで足首の部位を掻こうとする。
「ところで良いっすか」
ふいに、コラツルの直ぐ側に立っていた蒼尾人が声を上げた。断じてナザネルの音程ではなかったが、軽太には気が付かなかった。
「この高原の広告出してるの、お前っすよね」
彼は舌も出し入れせずに為守を見据えていた。ヤモベクワガタが幹を登っていた。流し聞きながら、コラツルは彼の悪意を察知している。
「? そうですけど」
為守は困り顔と呼ばれる表情と共に首を傾げる。眉と口角を下げる表情は軽太と接するうちに何度か目撃していた。
「ちょっと、向こうで話そうか」
互いの視線が合わないよう軽太は彼女に近づいた後、手を思いっきり握りしめ、施設の方へと駆け出す。彼女は一尺ほど身長が高いが、彼はその差を感じさせない怪力で引き摺る。為守は狼狽え、最初数歩分は彼の思うがままに歩かされていた。
「どうしましたか軽太くん、いきなり――」
「来い」
「え、強引」
困惑から抵抗し、腕を離させようとする為守を力で封じ込め、もう片方の手で電子襖を開ける。その隙に為守は掴まれた腕を振り遠心力で軽太の手を剥がすも、今度は彼に羽交い締められる。結局為守は抵抗を諦め、蛻の殻の様態を示す遺跡の中へと連れ去られた。
「意味わかんねえすけど」
暫くして黄色の彼はしゃがみ込み、コラツルに耳打ちする。
「儂もわからん」
彼女は視線が定まらない。カータクからすれば彼女は軽太と為守に初めから興味がないかのようであった。一方、リョウセイは寸劇より彼に変貌に目が行く。服装は先程までと寸分違わないのだが、彼にしては妙に態度が湿っている。彼に違和感を覚える様子のないコラツルに腹を立て、彼女は憶測のまま憶測を口にしようとする。
「アンタ、まさか――」
「――終わった!」
彼女の憶測は軽太の大声に遮られ怯む。Uターンするように立ち上がり彼の方を見やる。自身のストレスを一切隠さず、両手を叩くように擦り、閉じる電子襖からの反射光を伴ってこの場にフェードインする。為守は最早、閉じゆく闇の中にさえ居なかった。
「何しとったんじゃ」
「絶対に迷惑をかけないように言ってきた」
「? どういう――」
「こっちの事情」
軽太は、わざわざこちらを向いて質問するコラツルの意図を制止であると解釈し、半一方的な返答のみを渋々述べる。
「とにかく、為守はもう何もしない。ぼくの言うことだけはよく聞くからね、アイツ」
「……」
コラツルはこれ以上問うだけ無駄と判断し、口を重く閉ざす。カータクも右に倣い、リョウセイの念慮を再燃させない為にも押し黙る。
軽太は行きに踏み慣らした道をそのまま踏む。三人は渋々、何も言わぬ彼に従う。凪とも無風ともつかない感覚が各々の鱗を撫で回しては突き刺さっていた。




