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 「ねぇ、お母様。私もみんなみたいにお外でボール遊びしたいです」

 「だめよ、手を怪我してピアノが弾けなくなったらどうするの」


 「ねぇ、お母様。犬飼いたいな!まみちゃんもえりなちゃんの家も犬がいるの。

 私も欲しい!!」

 「ダメダメ。犬に噛まれでもしたら、大好きなピアノ弾けなくなるわよ」


ピアノ…別に好きじゃないよ。大好きでもない。


昔からそうだった。母は何をするにもだめと言った。学校の体育の授業ですら私はいつも見学だった。

周りはいいなとか、特別扱いずるいって言ったけれど、みんなの方がずるいよ。


私の世界はいつだってピアノが中心。…私のではないか。母が作った私の世界。

売れっ子ピアニストの母と、人気作曲家の父の間に生まれた一人娘。父は交通事故で私が生まれてすぐこの世を去った。母は一人で私を育ててくれた。


気がついたらピアノを弾いていた。ピアノは当たり前のように私の日常の一部だった。好きとか嫌いとかではなく、弾けて当たり前だし。弾けなかったら弾けるようになるまで練習する。厳しい母だった。


窮屈な世界。




けれど母にも事情があった。


私が高校に入学したと同時に母が入院した。膵臓癌ステージ4。

いつも長袖を着ていた母。私に厳しくピアノを弾くことを強要した母。


 「もう…大丈夫ね。あなたは一人でも立派に食べていける」


母は自分の死期がわかった上で、ギリギリまで自分の持てる全ての知識や技術を私の体に染み込ませてくれたんだ。そうとは知らずに私は…。


 

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「わがままばかり言って…ごめんなさい。……死なないで。お、かあ…さま」

 (マリリアナの瞳から流れ落ちる涙)

 「お嬢様…うっ。ひっく」


母親の死を耳にし倒れてから、マリリアナはもう三日もベットの上で目を覚まさずにいた。

兄であるリックスとリラ、もちろん他の使用人達は、高熱を出し涙しうなされながら母親に謝り続ける彼女の側から離れられずにいた。リックスとマリリアナの父であるロジルも仕事から帰るたびにマリリアナの様子を見に彼女の元を訪れていた。


 「マリー…、お前のせいじゃない。だから早く身を覚ませ」

 (マリリアナの頭を撫でるリックス)

 「……お兄様?なん、で…わたしの部屋に」


 「「「!!!!!!!」」」


くっ。まだ頭が痛い。前世とかいうものが一気に頭に流れてきてキャパオーバーしたみたいね。

それにしても前世にこっそりケータイでやってたゲームの中のキャラに転生だなんて。

しかも悪役令嬢側。はぁ。最悪。しかも今世?ゲームの中でも母を亡くすなんて。

もっと…こう。


 「……一緒に居たかっただけなのに。甘えたかった…ひっく。だっけなのに…ぅぅぅぅ」

 「マリー!!!」

 (マリリアナを強く抱きしめるリックス)


声を上げ泣きじゃくる妹を強く抱きしめるリックス、使用人達も涙した。

仕事から帰ってきたロジルも扉の外で涙していた。

使用人の言うようにマリリアナは本当は寂しかっただけなのに、理解できていなかった自分。

なんて情けない父親なのだろうと。


マリリアナ、リックス。お前達は父である俺が誰よりも幸せにする。


そう決意したロジルであった。



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