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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

浸かる事無き我が身を望む

作者: 静夏夜


 我が身を欲する者の心に届けと、これでもかと熱き叫びに油を注ぐ。

 高鳴る胸に視線を浴びせる厚みある身が内包されている事を如実に示すでもなく、身を粉にして生卵を摂取し整えたる裸体にサクッと衣装を着こなし銀盤へとあがる。

 表の顔には焦んがり焼けた小麦色の肌に艶めくテカリ。


 ロースクールからの仲間と並び、ひれ伏す者には高嶺の花とされ、輝く黄金の額を拝して過ぎ行く世の流れに我が身を焦らす。


 我等を扱える程の者は今が世には少なくもある。

 一時は庶民のアイドルとしての立場だったが、世情の曇りに労う者の片手間にもされ、金の玉子も説き伏せられて梅雨曇りの湯に潜らされパリッと仕立てた衣装も湿り、纏う黄金を身に固め、三つ葉の紋章を携えた者も多いと聞く。


 けれどいつからか間違いを侵した者の最後の晩餐にも呼ばれるようにもなると、メディアのイメージからかアイドルの地位を下げられた。


 そうこうしてる内に印度の方から狩りを好む者が趣向を変えようと、我等の身を切り裂き黄金の色を変えた血の海へと落とす事を好しとするが、主たるはどちらか血肉の争いが増えて行く。


 アイドルだった筈の我等の黄金たる姿は、いつの頃からか肥えた者共に雑多な扱いを受ける存在と成り果てたが、苦汁を飲んだのは印度の狩人の方だった。


 白紙の書類に挟まれ無造作にリソースと違える理想素案を投げかけられるが規格も無く、ソースコードも知らぬ者からしみったれにドバドバと浴びせられ戸惑う中、滲む汗にハネて固めたヘアーもドロドロと溶け出す。

 出来た物を持って行くが、中の下程しか無い頭でスマホを眺めて口も手も止め見向きもしない、コチラも失せたやる気に冷めるばかりで捗らず。


 信州へ細やかにもバリバリと働こうと向かったが、何がイケなかったのかド壺に溜まった黒き淀みの中へと落とされ、米所にて千切りキャベツの如くに並べ盛られた我が身の黄金たる栄光も黒き淀みに染まっていた。


 白壁に挟まれた蔵造りの味噌でもてなす名古屋の風土には、思わずここでの暮らしを考える。


 鍋を囲む冬にもなると、我等が称える衣装すらも鍋の具材と変わらぬとばかりに本性表し、何でもかんでもまぜこぜにしてドロドロになった味噌と共にかき込む様に煮え湯を飲まされ、この地を後にした。


 横浜に着くと勝ち気に烈庵なる者こそが元祖などと吐かし、外国風土に洒落た感じで生意気を言う者の多さに呆れるばかりで、むず痒さに居てもいられずその地を去った。


 大阪という街は大雑把に思われがちだが、ちまちましたのが好まれる。

 街で我を張りデカい態度をとれば、スグに厄介な者の目に触れ殴り飛ばされ、切り刻まれて串刺しにされる。


 最近じゃ何処もデカい方が受けるらしいが、ウチが元祖だ俵だ草履だと名前のセンスに黄金たる額に見合う価値は無く、どこの馬の骨だか中身を疑う。


「ご出身はどちらで?」


 聞いたこともない国の名前に、衣装や上辺で誤魔化せば何とでも言える、今の日本の外交政策の愚を見るような思いがした。


 そうさ、奴等は空を飛んで来た。


 所詮、俺みたいな飛べない豚はただの……



 腐る俺を再び立ち上がらせてくれたのは、帰宅時間を過ぎて客足も遠のくスーパーの惣菜コーナーに訪れた、(ヤツ)れ果てた女だった。


 冷めた俺の身体を見つめ迷う瞳からは想像もつかない程に、家事に立つと素朴にも律儀な姿勢と和の心。


 スッカリ俺は魅了されていた。


 尽くす女の真摯な情熱が如く、冷めた俺の身体を再び燃え上がらせるように通すたわわな胸のスイッチが入ると、日がな寂れた肌までもを焼き焦がす。


 再び燃えた俺の心を冷まさぬようにと、テーブルの上に家庭的な温もり感じるごはんの入った茶碗を置くと、千切りキャベツにトマトを乗せた皿を俺の前に差し出した。


 けれど女は用が済んだか、俺に刃物を向けて来た。

 

「お、おい、お前も俺を切り刻むのか?」


 女は何も応えず俺の等身にザクザクと刃を入れ、時に添えてた手を口元に寄せ舌舐めずりで笑みを溢す。


 切り刻まれながらもザクザクと小気味好く鳴る己の身体に不思議と幸せを感じていた。


 一度は冷めた俺の心が再び燃え上がり、焼けた肌も前より焦んがりとしていて香り立つかのようにも思える。


 切り刻まれてヒリヒリする身体に塩をぬり込む女の非道にも、男を引き立てるようにケツを叩く位の気立ての良ささえ感じていた。



「これで最後……」


 

 端から消えた俺との別れを惜しむように厚みのある胸の辺りを見つめると、口づけでもするように笑みを浮かべる女の艷やかな口の中へと運ばれた。


 俺は何と戦っていたのか、勝つ事しか頭に無かった。

 だが、幸せな生涯だったと今は思う。


 女の口の中で身も心も噛みほぐされると甘い肉汁がほとばしり、ほのかな塩味に安らかなる終わりを迎えた。




「ごちそうさま」


 

■あとがき


 以下の単語は、本文の言葉に気付いていただきたく、敢えて記すものに……


・小麦粉

・繋ぎの卵

・揚げ物トレー

・ロース

・ヒレ

・かつ丼

・溶き卵

・つゆ

・三つ葉

・取り調べ室

・カツカレー

・カレーは飲み物

・ソース派閥|(トマト・中濃・ウスター)

・カラシ

・ソースかつ丼

・味噌カツ

・味噌カツサンド

・味噌カツ鍋

・あの店……

・串カツ

・デカ盛り

タワラ草履ゾウリ

・米・西班牙・以外にも増えつつある外国産……

・具

・トースター

・塩

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文字の並びを眺めてるだけでも格調高さと大衆性の混在が目を楽しませてくれ、これは一種のカットアップ──シュールレアリスムなのか? タダなのか? と錯覚させる。 ……なんて文学批評っぽいこと…
[良い点]  なんだかスゴイことになっていました!   とんかつの生い立ち(?)からイメージ、各地の名物、論争、原材料、パロディなどなど。静夏夜さま節が盛り沢山♪ これは確かに「とんかつ」の物語でした…
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