とり
かしりと、何かの割れる音がする気がした。
音もなく、すべてが壊れていく気がした。
まだ、生きているようでもあり。
もう、死んでいるようでもあり。
たった独りで生まれてきた鳥。白くて大きな翼の、美しい鳥。
愚かだね、と誰かが言った。どうせいつかは死ぬんだから、生まれてきても無駄になるだけ。
別の誰かが同意する。生きるに適う場所ではないと教えたのに。
ではどうしてそんな場所で生きてたの?
そんな反問に、誰かが答えた。生まれてきたなら、諦めるよりほか仕方がない。
ではどうしてそんな場所に生まれるの?
選択の余地のない、他動的なものさ。
選べたのに生まれてくるとは何て愚かなんだろう。みんなが軽蔑し、憐憫を口にする。辛いことも、悲しいことも、苦しいことも。知らずにいられたのに何て哀れなんだろう。
誰かが提案する。いっそのこと、おまえも死んでしまえばいいのに。
そんなに辛く苦しいなら。
そんなに傷ついて疲れたなら。
死んでしまえばすべてから自由になれるから。
夢のなかで囁く声は、気がついたら消えてしまっていた。
たった独りで生まれてきた鳥。初めは生まれることを希求して、今は生まれたことを後悔している。
広い海のなか、音を立てて舞いおりた。真っ赤な血に、大きな波紋。
それでも僕は、見てみたかった。
何も知らないのは淋しい。だから何かを知ってみたかった。
時間をかけて辿りついた。
生まれる前に死んでいたはずの鳥。
それでも生まれてこなければ、それさえも知ることはできなかった。
血の海のなかであげた慟哭。
白くて小さなたまごから生まれた、真っ黒に染まってしまった鳥。深い海の底で大きな翼を横たえた。
それでもいつかまた、きっと・・・。