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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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8 ダリウスの帰還

ここまでがこの物語の序章にあたります。


ストックが失くなりましたので、次回から投稿が不定期になります。

なるべく早く投稿出来る様に頑張りますので、これからも宜しくお願いします。

「グレイス様、ダリウス様の安否については何と?」


ルノール王国との晩餐会があった翌日、アーレンからフェアノーレの連絡役が戻って来たと連絡があった。


「·····漸く今日、我が国の連絡役が着いたのだけど、アーレンの話ではダリウスには今のところ命に別状はないそうよ。ただ、ルノール王国の王太子殿下が話されていた通り、大怪我を負っているそうなの。1ヶ月は動かせないらしいわ。」

「治療の魔法を使える者がいると思うのですが····それでも完治とは言えない程の?」

「タッカ、グレイス様の不安を煽る様な事は言わないで。」

「すみません。····ダリウス様はやはりグレイス様を望まれるのでしょうか?」

「あれが本心かは分からないわ。『勇者』の称号を得るとなると、我が国だけでなく、他国からも婚姻の申し入れがあると思うの。敢えて私を選ぶ必要はないわ。」

「これでダリウス様の本音が分かる事になりそうですね。」

「求められたら、応えるのですか?」

「命をかけて、大怪我を負ってまで使命をなし得た方。気持ちに添いたいと思っているわ。」

「グレイス様がそのお気持ちなら私達は何も申しません。グレイス様に付いて行くだけです。」

「俺もです。」


ハルとタッカは迷いなく答える。


「有難う2人とも。」


表立っては見せないが、心配で押し潰されそうなグレイスの心情を、2人は必死に支えようとしてくれていた。


アーレンはエルディア王国にダリウスを迎えに行くため、騎士団を送った。

こうしてダリウスを待ちながら、1か月が過ぎていった。


◇◇◇


「アーレン王太子殿下、ノーラ卿を乗せた馬車が王都に入ったそうです。」


その日の昼過ぎ、アーレンの執務室に一報が入った。


「そうか、謁見の間に皆を集めよ。マリアとグレイスにも知らせ、準備をさせよ。」


主要な高位貴族には、古竜の討伐が成された事と、ダリウス帰還の予定を通達していた。

その為、ダリウスとの縁を繋ごうと、多くの令嬢が名乗りを上げていた。

おそらくこの知らせを受けて、多くの者が招集のかかった父親と共に王宮に駆けつけるだろう。



ダリウスを乗せた、王家の紋章入りの豪奢な馬車は、迎えに行かせていた騎士団に守られながら王都に到着した。

古竜討伐の知らせと、『勇者』となったダリウスの帰還の知らせを聞きつけて、王城へ向かう街道には、行く先々人が溢れ、皆馬車に向かい感謝の気持ちや労いの言葉をかけていた。

ある者は花びらを撒き、またある者は勇者を讃える歌を歌った。

王都中が歓喜に包まれ、お祝いムードの中、馬車は王城へと迎えられて行く。


しかしダリウスを乗せた馬車はカーテンを引かれ、ダリウスの姿を伺い知る事は出来なかった。



「ダリウス·ノーラ卿のご到着です!」


謁見の間で皆が待ち構える中、入り口にいる騎士のダリウス到着を告げる声が響き渡った。


体調を壊している国王に代わり、王太子であるアーレンと王太子妃のマリアが玉座に座る。

グレイスはマリアと反対側の位置で、アーレンの座る玉座の側に立ってダリウスの入場を待った。


やがてゆっくりと会場の扉が開かれる。

それと同時に拍手と歓声が起こる。


しかし次の瞬間、皆息をのんだ。


ダリウスはそこにいた。


討伐のため旅立った時は、磨かれた銀の鎧を身につけ、溢れる気力と自信に満ち溢れていた表情をして、堂々と立っていた。

しかし、ここに現れたダリウスは、立つことなく、車椅子に座っていた。

治療の魔法を使う魔導師だろうか。

ローブを着た2人と従者1人がダリウスを介添えする形で付き添い、共に入って来た。

車椅子に座るダリウスは、左腕の肘から下、左足の膝から下が欠損していた。

褐色だった肌は体調が悪いのか土色で、何より毒でも受けたのだろうか、左側の肌は1部紫黒に変色していた。

目の下にはクマが出来、頬は少し痩け、力が漲っていた体躯は、一回り小さくなった様な印象だ。


変わり果てたダリウスの容貌に、皆言葉を失う。


やがて車椅子は所定の位置で停められ、ダリウス以外の者はアーレンを前にし跪いた。


「この度、エルディア王国に現れた古竜の討伐を成し遂げた我が国の騎士、ダリウス·ノーラに『勇者』の称号を授与する事とする。」


アーレンのこの言葉で、静まりかえっていた謁見の間が、再び歓声で沸き上がる。


「また、我が国で公爵の爵位と領地を下賜する。ノーラ卿、このまま古竜を生かしておけば、このフェアノーレも災悪に見舞われたであろう。国民と共に心より礼を申す。有難う。それから、先程話した褒賞とは別にそなたの望むものを与えよう。何か望みはあるか?」


アーレンの言葉に皆が注目する。


沈黙が続く。

皆ダリウスの言葉を聞こうと声を潜める。


「グレイス····妃···殿下·····。」


ダリウスの乾いた口唇から、(かす)れた声が聞こえた。

ただ、皆それがグレイスの名前を呟いた事を聞いた。


「グレイスと申したか?」


アーレンはダリウスに聞き返す。

ダリウスは否定も肯定もしなかった。

アーレンは傍らに立つグレイスに目をやる。

グレイスはダリウスを見つめていた。


「王太子殿下····。」


グレイスはそう言うと、アーレンの方に身体を向け、美しい(カーテシー)をする。


「参ります。」

「······グレイス。」

「この場所で魔法を使うことをお許し下さい。」

「魔法?」

「事は急を要します。」

「·····分かった。」


アーレンが許可すると、グレイスは姿勢を戻し玉座のある位置から階段を降りて行く。

そしてダリウスの元へ近づいていく。


ダリウスはゆっくり視線をグレイスに向ける。

美しい銀髪をきっちり結い上げ、蒼色のヘッドアクセサリーに詰襟の紺色のドレスを纏ったグレイスは今日も美しい。


「ノーラ卿。」


グレイスは一言そう呼び掛け、美しい微笑みを向ける。

グレイスはダリウスの後ろに跪く魔導師2人に声を掛ける。


「これは竜の呪いですか?」

「呪いと申しますか、ノーラ卿は古竜を倒す際、竜の血を身体に受けております。ノーラ卿の身体の紫黒い皮膚の痣がそれです。竜の血は薬になると言われますが、古竜程の強い魔力を持った生き物となると、そのまま身体に受ければ毒になります。そして····身体の中に徐々に浸透していき、死を招きます。今、我々の魔力を流し、侵食を遅らせていますが、それでも少しずつお身体を蝕んでいます。ノーラ卿は今こうしておられますが、苦しみは相当なものだと。」


そう話す魔導師2人にも疲れが色濃く顔に現れている。


「3人とも離れて下さい。」

「妃殿下何を?」

「ある古文書には、竜の毒の解呪と解毒の方法が記されています。」

「まさかご存知なのですか?」

「今すぐ行います。離れて下さい。」

「承知しました。」


ダリウスに付いていた魔導師2人と従者がその場を離れる。

アーレンを含め、周りの貴族達はグレイス達が何を始めようとしているのか分からなかった。


グレイスはダリウスの目の前に立ち、目を閉じる。

そして呪文を詠唱し始める。

すると、グレイスの身体は仄かに銀色に発光し始める。

それと同時にダリウスとグレイスのいる場所に、銀色に光る大きな魔方陣が浮かび上がる。

周りの人間は、突然の事に驚きの声を上げながら魔方陣から離れる。

アーレンとマリアも固唾を飲んで見守る。

グレイスの詠唱は暫く続く。

そのうち、グレイスは詠唱を続けながらダリウスの前に跪き、ダリウスの右手を両手で取り、握りしめる。

ダリウスも驚きの表情でグレイスを見つめる。

すると、グレイスの光が流れ移る様に、ダリウスの身体もグレイスと同じように発光し始める。

それを見ていた周りから感嘆の声があがる。

そして生気を失っていたダリウスの顔色が次第に良くなっていく。

紫黒い身体の痣もどんどん薄くなっていく。

ダリウスの目にも気力が戻り、グレイスを驚きの眼差しで見つめ続ける。


やがてグレイスは立ち上がると、片手でダリウスの手は握ったまま、もう片方の手の2本指をダリウスの額に当てる。


「●●●●●●●●!」


グレイスが一際強く何かを唱えると、グレイスとダリウスの身体が同時に強く発光する。

皆あまりの眩しさに顔を手で覆う。

光が治まり、そちらに目をやると、離れていた魔導師2人が直ぐ様グレイスの元に駆けつける。


「グレイス妃殿下、大丈夫ですか?今の魔法は、命を糧に発動するもの。あまりにも危険です。」


その言葉にグレイスは微笑んで応える。


「解呪は成功しました。ノーラ卿、お身体はいかがですか?」


魔導師達がダリウスに目を向けると、そこには先程とは打って変わって、目のクマもなく、顔つきも以前とほとんど変わらない生気に充ちたものになっていた。


グレイスは再びダリウスの手を両手で取り、その場に跪く。


「ダリウス·ノーラ卿、命を懸け古竜を倒し、この世界を救って下さった事、感謝申し上げます。貴方が望むなら、これからの生を共に過ごして参りましょう。······ダリウス、頑張りましたね。生きて···戻って来てくれて有難う。·····待っていましたよ。」


グレイスは最後、言葉を詰まらせながらダリウスに告げる。

そしてグレイスの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


それを聞いたダリウスもまた、感極まったのか、涙が一筋頬を伝わる。


「グレイス様·····ただいま戻りました。」


そうダリウスは一言話し、グレイスに向け笑みを見せた。


「ノーラ卿·····。」


側に控える魔導師達は、あまりのダリウスの変化に声を失う。

すると、繰り広げられる感動的な場面を目の当たりにして、自然と拍手が起き、いつしかそれは祝福の大歓声となった。


それを見ていたアーレンは少し苦笑いをしながら、何かを諦める様に、深いため息をつく。

そして立ち上がり、集まった者達に告げる。


「我等が勇者ダリウス·ノーラの希望により、側妃グレイスは王室を離れ、ダリウス·ノーラ公爵の元へ降嫁させる事とする。」


それを聞き、再び大歓声が起こる。


こうしてグレイスとダリウスは、ダリウスの当初の希望通り、正式に結婚する事が決まったのだった。





数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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