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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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7 ダリウスの安否

「マリア、まだ怒っているの?」

「だってあの孤児院の子供達に約束をしていたのよ。子供達も楽しみにしていると言ってくれていてのに、私に断りもなしに延期だなんて。」

「何言ってるんだ?飲み過ぎて起きれなかったじゃないか?夜会の翌日、そして次は明後日の会談後の晩餐会と厨房も片付けと準備で忙しいんだ。君のお菓子作りに付き合っている暇はない。それに大丈夫なのか?ルノール王国の王太子を迎えるんだぞ。君自身準備は出来ているのか?」

「私の準備って、会談後の晩餐会をご一緒するだけよね?」

「マリア·····ちゃんとルノール王国の事は勉強しているんだよね?」

「え、ええ。王太子妃教育で歴史は習ったわ。言葉は····まだ片言しか話せないけれど、帝国語で話せば大丈夫なのよね?」

「マリア様、事前にルノール王国についてまとめたものをお渡ししたはずですよね。そちらを再度ご確認下さい。それと孤児院へのお菓子ですが、簡単なものですけど、私の宮の厨房で料理人と侍女のハルが作ったクッキーを、私の護衛のタッカに今持って行かせていますから心配しないで。」

「え?本当に?それって·····。」

「ええ、ちゃんと王太子妃からだって伝える様にしているから。とにかく今は、ルノール王国の会談に集中して。」

「有難う、グレイス。私のお母さんみたい。」

「おい·····。」


夜会の翌日、会談後の晩餐会の打ち合わせでアーレンの執務室を訪れていたグレイスは、居合わせたマリアに絡まれていた。

王宮に上がった当初は、グレイスを避ける様にしていたマリアも、度々失敗をフォローしてくれるグレイスにすっかり懐いてしまった。


「アーレンがグレイスに頼る気持ちが分かるわ。」

「おい。」


と、こんな感じである。

そして最近のアーレンもどこかそわそわして落ち着かない。


何か私に隠しているわね。

厄介な問題じゃなければ良いけれど·····。


最近のグレイスの懸念事項である。


こうして迎えたルノール王国との会談の日、話し合いは実りの多いものとなり、両国との友好関係は、確固たるものとなった。

アーレンは、マリアとの関係で分かる様に、ちょっと女性に緩い所があるが、王太子としての仕事振りは確かなもので、グレイスを安心させていた。


しかし、このルノール王国との晩餐会でもたらされるある情報で、3人の関係は終わりを迎える事になる。


◇◇◇


「今、何とおっしゃいましたか?」


晩餐会の途中、突然ルノールの王太子が発した言葉に、フェアノーレ王国側の人間は、皆驚愕の表情を浮かべる。


「ええ、ですから2日前に例の古竜が無事討伐されたと連絡がありました。その情報はこちらにはまだ?」

「ええ、届いていませんね。」

「そうですか·····連絡役に何かあったのかもしれませんね。まあ、古竜がいるエルディア王国は、我が国の隣ですから、古竜の動きについては、こちらもかなり注視していましたから。討伐隊の人数も多く出していました。連絡は日に2度来るように、人員も配置していました。ですから、情報は確かなものです。」

「では本当に?」

「ええ、かなり厳しい戦いだったと。空気も薄く、地場も悪い。古竜は火属性ではありますが、天候のせいか、身体が帯電している事が多い様で。集まった討伐隊の中で、唯一、雷の耐性があったのが、貴国のダリウス·ノーラ卿だったそうです。」


この世界の人間には多少なりとも魔力があると言われている。

ただ、火をつけるといった簡単な生活魔法は、ほとんどの者は使えるが、より具現化した攻撃や治癒等の魔法になると、多大な魔力量を必要とし、ほとんど使える者はいない。

故に使える程の魔力を持つ者は、半ば強制的に魔導師として魔導師団、もしくは騎士団等国に準ずる部所に入らなければならない。

国による囲い込みが行われるのである。

王家たる所以は、魔力量が他を圧倒しているからである。

そしてダリウスは、魔力持ちである事は勿論のこと、それが珍しい雷属性であり、その魔力を武器に(まと)わせる事が出来た。

近衛となり、アーレンの護衛騎士になったのも、剣術もさることながら、この魔力による所が大きい。


「それでノーラ卿が自ら囮になり、古竜を狭い場所に追い込み、最後は激しい戦闘となったそうですが、ノーラ卿が古竜の急所を突き、倒したそうです。言葉で話すのは簡単ですが、相当過酷な戦いだったと。死者も多く出ています。そしてノーラ卿も·····。」


そこまで話し、ルノールの王太子は一旦言葉を切る。


「ダリウスが何か?」


竜の急所を突くとなると、かなりの至近距離になる。

倒したからといって、ただではすまないだろう事は容易に想像できる。


「詳しい状況は分かりませんが、大怪我を負ったと。伝令が確認した時は、まだ息があったそうです。」


ひゅっ


グレイスは思わず、小さく息をのむ。


ダリウスが大怪我を負った······。


「······迎えに行かなくていいのかしら?」


グレイスが考えている事を、マリアが容易に質問する。


「大怪我ならすぐには動けないだろう。治癒の出来る魔術師がいれば、命を落とす事はない。こちらから別に隊を送り、迎えに行かせよう。」


アーレンはマリアに説明しながらも、グレイスを気遣う様な口調で話す。


「それが良いでしょう。貴国の連絡役も間も無くこちらに着くはず。今一度確認してみて下さい。しかし、本当に倒せた事が奇跡かもしれません。古竜がこのまま活動を活発化させていたら、当然我が国にも甚大な被害が及んだ事でしょう。ルノール王国として、ダリウス·ノーラ卿には、心より御礼申し上げる。」


ルノール王国の王太子は最大の賛辞でダリウスを褒め称えた。

 グレイスは表情を乱すこと無く、微笑みを持ってルノール王国の王太子の言葉に応えた。


晩餐会は古竜討伐成功の知らせにより、更に穏やかに進んでいった。


そしてフェアノーレ側の連絡役が国にたどり着き、アーレンにダリウスの情報がもたらされたのは、翌日の事だった。



◇◇◇


「アーレン、グレイスはどうするかしら?やはり王宮を去るのかしら?」

「そうだな·····。」

「グレイスには全てを話したの?ダリウスの怪我の状況。」

「いや、命は取り留めて、ただ直ぐには動かせる状況にないから、帰国には1か月は要するだろう、とだけ伝えた。」

「ダリウスはやっぱりグレイスを望むかしら?」

「分からない。でも出立前、ダリウスがグレイスを望んでいたのは本心だ。グレイスはあまり信じていなかったが。」

「そう·····今さらだけど、グレイスって、本当にダリウスの事が好きなの?ほら、前にアーレンが私に話してくれたでしょう?グレイスは貴方のお兄様の婚約者だったって。お兄様はグレイスを自殺の道連れにする程好きだったのでしょう?グレイスも逃げなかったという事は、グレイスもお兄様の事を好きだったからではないの?ダリウスの事は、そのお兄様を忘れようと思ってとか。」

「ああ、それはね、この話をしたらマリアも引くと思うけど····。そもそも、タンドゥーラ公爵夫人がグレイスを妊娠していた時に、王宮に顔を出した事があったそうなんだ。その時、幼い兄上が夫人のお腹を見て、この子が欲しいと言った事が始まりだったらしい。」

「え?」

「何でも、感じる魂が気に入ったんだと。まぁ、魂って、魔力の事だと思うけど。」

「えぇぇ·····」

「その時は、子供は何か感じるものがあるのかな、程度に流したらしいんだが、生まれたグレイスはあの通り、恐ろしい位美しい娘だろ。兄上がどうしてもと望んで、グレイスが5歳の時には取り敢えず婚約者候補になってた。それから私達の遊び相手として、グレイスがソフィアや他の子供達と共に王宮に来るようになった時から、兄上の奇行が目立つ様になって。」

「奇行?」

「ああ、兄上がわざとグレイスを危ない遊びに誘ったりとかしてね。」

「え?」

「公爵は兄上がやんちゃしてた位しか考えていなかったかもしれないけれど、それは違うんだ。」

「何?」

「兄上の過失でグレイスを傷つけて、その責任を取る形でグレイスを自分のものにしようとしていたんだ。」

「は?」

「それに、傷がついた令嬢は、結婚が難しくなるとか言われていたしね。他の人間にグレイスを渡したくなかったんだよ。」

「そんな事をしなくても、望めば直ぐに婚約者に出来たでしょうに。」

「兄上には、他国との縁談が計画されていたからね。まぁ、結局、兄上のグレイスに対する並々ならぬ想いが認められて、正式に婚約者に決まったんだけど、グレイスは兄上を素直に愛せなかったみたいだ。そしてそれまで、兄上の奇行を事前に察知して回避していたのがダリウスさ。グレイスにとってみれば、怖い思いをしている所に現れる本当の王子様に見えただろうね。そういう事が続いて、気がつくと、グレイスはダリウスを見るたび頬を赤く染める様になって。それは可愛らしかったよ。」

「あぁ····グレイスは恋をしたのね。でもそんなグレイスをお兄様は許さないでしょう?」

「ああ、矛先はダリウスに向いて、剣で戦いを挑んでいたよ。まあ剣術は、ダリウスの右に出る者は、なかなかいないからね。魔術だけなら圧倒的に兄上だろうけど、そこは兄上のプライドが許さなかったんじゃないかな。それから、月日が経ち、あの惨劇。まあ、グレイスの気持ちを聞いた事はないけれど、少なくとも兄上をグレイスが愛しく想い続けているというのは、ちょっと考え難いかな。」

「確かに。気持ちはダリウスでしょうね。それで、お兄様は処刑されずに幽閉されているのよね?」

「そうだよ。王城の一番端にある塔だ。興味本位で近づくんじゃないぞ。」

「ええ?王城内にいるの?怖いわ。絶対に近づかないから。」

「ああ、それが賢明だ。塔から万が一出る事があったら、もうグレイスを差し出すしかない。地位も名誉も、とにかく兄上を縛るものはもう何もないから、何をしてでもグレイスを手に入れようとすると思うよ。」

「分かったわ。」

「グレイスには·····幸せになって欲しい。それが果たしてダリウスの元にいる事なのかは、分からないけれど····。」


アーレンは手元にある、古竜討伐の成功と、ダリウスの現況について書かれた報告書に目をやり、そう呟いた。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。


現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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