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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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64 魔族が消えた日

不定期投稿です。

執筆の時間が取れない日々が続いております。

待って下さっている皆様、申し訳ありません。


◆◆◆◆◆


『私の名はカーム。王宮に勤める一回の魔術師だ。今日新たな任務が与えられた。聖女が魔族に嫁入りする事になった。魔王の元へ送り届けるのが、私の役目だ。この婚姻が無事成されれば、新たな魔王の元、私達人間との友好関係を築く事が出来るだろう。更に秩序も生まれれば、魔族による無差別な殺戮もなくなる。



あと3日ほどで魔王の城に着くというのに、聖女が突然姿を消した。

探知の魔法を使い、後を追う。

必ず連れ戻さねば。


聖女はどうやらエルフの王の住む森を目指しているようだ。

魔族とエルフは犬猿の仲だ。

魔族に知られれば、花嫁を取り戻す事を理由に戦争が始まるかもしれない。

あの聖女は駄目だ。

覚悟がないなら、はじめから断ればいいものを。

本国に連絡し、代わりの花嫁を用意するよう伝えた。

上手くいくだろうか?

魔族との戦いだけは避けねばならない。


やはり聖女はエルフの王へ助けを求め、保護されているらしい。

明日エルフの王へ謁見することになった。

何としても引き渡してもらわねばならない。


今日エルフの王に会って、衝撃的な話を聞いた。

エルフの王は聖女を妻として迎えるらしい。

何でも聖女は、前世の記憶が戻って、エルフの王が昔愛した女性の生まれ変わりだと言っているらしい。

だからどうした?

そんな事は、責任を放棄する理由にはならない。

ましてや事情を説明せず逃げ出すなど言語道断だ。

こちらは人間の未来が懸かっている。


今日、魔王の住む城へ、花嫁が遅れる事を伝えに行った騎士達が、全員殺され、その遺体が本国に戻されたという話を聞いた。

どうやら花嫁が逃げ出した事を知られたようだ。

何という事だ。


結局、聖女は戻って来なかった。

魔王は相当怒っているらしい。

戦いの切っ掛けを与えてしまった。

戦争が始まる。

人間は生き残れるだろうか?



今日も大勢が死んだ。

仲間も多く死んだ。

エルフの王が援軍を送ってくれることになった。

何でも聖女の願いを聞いたからだとか。

お前のせいで戦争になったんだ。

許しを請うなら、自ら魔王の元へ向かい謝罪し、殺されればいい。

こちらは各地で無差別に魔族に殺されているんだ。

自分だけ守られてぬくぬく生きるなど、許されるはずがない。





今日、エルフの森を魔族が襲撃した。

その中には魔王も居たらしい。

そして自らエルフの王を殺し、立ち去ったと。

エルフ達の怒りは凄まじい。

魔族と人間、エルフ、他の種族を交えての全面戦争が始まる。




今日、王太子殿下から驚くべき事実を聞いた。

聖女は治癒の魔法が使えるが、彼女の本来の力は魅了の魔力だそうだ。

その魅了の魔力を使い、魔王の心を奪う予定だったと。

そして逃げ出した先で、その魔力をエルフの王に使ったのではないかと。

エルフの魔法結界をも打ち破るとは、それが聖女たる所以なのかもしれない。

結局エルフの王は殺されて、聖女は何処に行った?

見つけたなら、もう殺した方がいいのではないか?

魅了の能力など、邪魔でしかない。

そんな物騒な考えさえ頭を(よぎ)るようになった。


そう言えば、何故魔王は、あんなに聖女を欲していたのだろうか?

理由は王太子殿下もご存知ないらしい。





あれから10年が経とうとしている。

戦闘好きの魔族は相変わらず各地で殺戮を繰り返している。

彼等は魔王の支配下にあるとは言え、個人行動だ。

何処に出没し、何がしたいか分からない。

兵も皆疲弊している。

人間の数も大分減ってしまった。



今日ある知らせが入った。

魔族の一部が地中に埋り、眠りについたと。

魔族はそのほとんどが子供を作ることをしない。

強い魔族だけが数体子供を残すだけ。

定期的に眠りにつく事で、それぞれが長い時を生きてきたのだろう。

これはチャンスかもしれない。

魔族を眠りにつかせ、魔王さえ倒してしまえば、戦いは終わるのではないか?





今エルフを統率しているのはエルフの王子だ。

父親である王が亡くなっているというのに、まだ王位を継いでいない。

その王子は人間に協力的だ。

そして今日、王子と協力して、眠っている魔族が目覚めないよう封印する魔法陣が出来上がった。

これはエルフの持つ聖属性の魔力を用いる。

いよいよ魔王との最後の戦いが始まる。

表立った戦闘とは別に討伐隊を編成し、魔王の住む城に密かに忍び込み、最小人数で魔王を討つ。





遂にやり遂げた。

魔王を倒す事が出来た。

魔王と血の契約を行っていた多くの魔族が道連れとなり、息絶え、灰と化していった。

エルフの王子は同時に、例の魔法陣を展開し、大地に聖属性の魔力を流し込んだ。

これで地中に眠る魔族を封印出来た。

世界に安寧が訪れるだろう。




今日聞いた話だが、エルフはこの世界を去るらしい。

魔族や魔獣の死体から発せられる瘴気が、エルフ達を苦しめているとか。

彼らは人間以上に穢れに弱い。

そして今まで貯めた聖属性の魔力で『神々の門』を開くらしい。

ただこの門は、こちら側から閉じねばならない。

だからエルフの王子は1人この世界に残り、その役割を果たすそうだ。

そしてその日、エルフはこの世界を去り、残った王子に王族の姫との結婚を提案したが、王子は断り、共に魔族を封じる魔法陣を考え、作り上げた人間の魔導師の女性と、何処かへ旅立って行った。


噂では、彼女の寿命が尽きる時、共に逝く事を望んでいるらしい。


その後どうなったかは知らない。


いつの日か、魔族が目を覚ますかもしれない。

その時はどうか、再び人類が協力して魔族を倒す事を願っている。』



◆◆◆◆◆



グレイスは読んでいた古文書から目を離し、目頭を押さえた。

エリオットから古文書を渡されて2日、グレイスは寝る間を惜しんで古文書の解読を行った。


「聖女というのは、どうしてこうも自分勝手な人間が多いのかしら。それにどうして魔族を封印した話が後世に伝わらなかったのか?」


グレイスは深い溜め息をついた。

その古文書には、魔族を封印したという魔法陣が描かれていた。


これが······。


本当は、地中で眠りについたナルージア達は、本来はこんなに長い間眠っているつもりはなかったのだろう。

魔法により目覚めるのを妨げられていたのだ。


もしかしてこの魔法陣は、魔族に直接繋がることの出来るものかもしれない。

繋がった状態で、封印するための魔法と魔力を送ったのではないだろうか。

そしてエリオットは、この魔法陣を利用して、魔族の居場所を探ったのでは?


私にもこの魔法陣が使えれば、未だ眠っている魔族の居場所を知ることが出来、危険な魔族を滅せられる?

エリオット様が出来たのなら、わたしにもその可能性はあるはず。

ただ、ナルージアの様に、互いを理解すれば、共存出来る魔族もいるかもしれない。

そこをどう見極めるか。


グレイスは古文書の魔法陣を紙に書き写した。



「読み終わったのかな?」

「エリオット様·····。つい今しがたです。」


エリオットはいつからいたのだろうか。

部屋の壁に寄りかかり、グレイスを見つめていた。


「そう·····。何か質問はあるかい?」


グレイスは、心の中に生まれた疑問を、そのままエリオットにぶつけることにした。


「エリオット様はこの古文書に描かれている魔法陣を使って魔族の眠る場所を探し当てたのですか?」

「そうだ。」

「そうならば何故、倒さなかったのですか?エリオット様にはそれが出来た筈です。それが功績として認められれば、再び地位を取り戻せたでしょう。」


エリオットは悲痛な眼差しのグレイスを見ると、少し困ったように微笑み、グレイスの隣に座った。


「始めはそうしようとも考えた。幽閉塔を抜け出した事は責められるだろうが、魔族に対処する事は人類を救う事になるからね。ただ日々心が疲弊していくんだよ。もし上手くいかなかったら、一生あの幽閉塔で生涯を終える可能性があるという絶望感に苛まれた。そんな気持ちを抱きながら、幽閉塔を抜け出した。古文書に書かれている事が本当か確かめる為に。そうして魔法陣を展開し、そこから魔力を辿り、着いた先で見つけたのは、かつての魔王の城だった。そこで得たこの力を、誰に許可されるでもなく、自分自身の判断で使う事を決めた。そんな考えは、魔王の力の影響かもしれないけれどね。」


「エリオット様は、どんな世界を望んでいらっしゃるのですか?破壊が繰り返されれば、民が苦しみます。お願いです。どうかこれ以上、人間の敵になるような真似をなさらないで下さい。」


「·····だから君に短剣を渡した。グレイスが私を終わらせてくれればいい。それが今、君にとって出来る最善だろう?」


それは分かっているけれど·····。

グレイスは暫く沈黙した後、エリオットにこう返事をした。


「······分かりました。私の手であなたの生を終わらせます。その前に、私に何かして欲しい事はありますか?」

「そうだね、そもそもここに来たのは君と最期の穏やかな時間を過ごす為だ。3ヶ月、君と2人の時間が欲しい。」

「それで良いのですか?」

「それがしたくても出来なかった事だ。君は誰かの妻だったから。」

「·····分かりました。それからお願いがございます。」

「何?」

「この古文書をルダリスタンのリーヴァに送りたいのです。彼なら、エリオット様と血の契約を結んでいない魔族が多数出現しても、この魔法陣を使い、魔族に干渉し、殺戮を防ぐ事が出来ると思いますので。聖属性の魔力を持つ者は、リーヴァの元に居ります。」

「リーヴァか·····。転移の魔法陣を使い、物を送ることは出来る。しかし今は駄目だ。こちらの居所が知れる。然るべき時が来たらそうしよう。」

「有難うございます。」


こうして、エリオットとグレイスの最期の3ヶ月が始まった。





◇◇◇




その日、リーヴァは皇太子の執務室で事務処理に追われていた。

グレイスが姿を消してから2ヶ月半程が経とうとしていた。


各国の王都を数体の魔族が襲撃して以来、目立った動きはない。

ただエルディア王国の山岳地帯にある古城に魔族が集結していると報告を受けた。

各国は、討伐隊を組み戦いを挑むが、未だ成功していない。


ふと室内に風を感じた。


そして以前受け取った、グレイスの魔力が込められた魔石が嵌め込んであるペンダントが、熱を持ち始めたことに気づいた。


リーヴァはペンダントを外すと同時に、それは発光し始めた。


何か来るな。


リーヴァはそれを宙に放る。

するとペンダントは、宙に留まり、それから発せられる光は魔法陣を形作った。

そして魔法陣から一冊の古い本が出現した。


これは、古文書か?


やがて本がその全体の姿を現すと、魔法陣は消え、本と共にペンダントも床に落ちた。


リーヴァはペンダントと本を取り上げる。

本には手紙が挟まれていた。


「もしかしてグレイス?」


リーヴァは逸る気持ちのまま、手紙を開封すると、直ぐ様手紙を読み始めた。


「こんなものが·····。」


手紙を読み終えたリーヴァは、興奮を抑えきれなかった。


グレイスの手紙には、古文書の大まかな解読と描かれている魔法陣についての説明があった。

そしてナルージアが魔族を取りまとめられるなら、魔族との共存の道を探して欲しいと書かれていた。


「グレイス·····。」


それが上手くいかないなら、聖属性の魔力を持つロシェルの生が続く限り、地中に封印して欲しいとも書かれていた。


こちらに魔族に対抗出来る手札が増えた。

しかしこの話は広めない方がいいだろう。

だから私に託したのか。

そしてこの手紙が、グレイスが我々の元に戻らないという意思表示にも思えた。


最期の時が近いのかもしれない。


そう思うだけで、リーヴァの心は苦しくなった。


始めから私と結婚していれば、こんなにグレイスの人生が振り回される事もなかったのに。


リーヴァは拳を握りしめた。


しかしロシェルにどう説明しようか·····。

だがまずナルージアだな。

同族の魔族を攻撃するのを躊躇うことはないが、この封印に利用される魔法陣を見て、どう思うか。


リーヴァはナルージアと対決することも視野にいれ、呼び出すことにした。



『何?グレイスを探すのに忙しいんだけど。』


呼び出されたナルージアの機嫌は悪かった。

グレイスと血の契約をしているにも関わらず、グレイスが探知されるのを拒否している為、思うように居所を探す事が出来ないからだ。


『すまないな、ただグレイスから手紙が届いたから報告しようと思ってね。』

『何だって?』


ナルージアの表情が変わる。


『それ、僕にも教えて欲しい。』

『ロシェル·····ナルージアについて来たのか?』


ナルージアを皇城の一角に呼び出していたリーヴァだったが、そこにロシェルも現れた。


『リーヴァ様、僕はグレイスの夫だ。知る権利がある。』


ロシェルはあの日以来、グレイスの傍に居た時の柔らかい顔つきではなく、若干目の隈もでき、表情さえも厳しいものへと変わっていた。


『ロシェル·····そうだな、すまない。』


それからリーヴァは、ナルージアとロシェルにグレイスから送られてきた古文書と手紙を見せた。


手紙の文字を見るだけで、ロシェルの目から涙が溢れてきた。


『ロシェルしっかりしろ。魔族と共存出来るかどうかも、君の聖属性の魔力に懸かっている。グレイスはナルージアとロシェル、君達にこの世界の平和を託していると言ってもいい。』

『·····はい。』

『それでどうなんだ、ナルージア?正直、魔族との共存の話は、グレイスが君の命を守りたいのに他ならない。人間は、君が魔族と戦ってくれているのをちゃんと見ている。君の協力があって、魔族討伐が上手くいっているのも評価として大きい。人間との共存をアピールするなら、もう今しかないと思う。』


『······グレイス、俺の事を好きなんだな。』


ナルージアはそう言って、1人ニヤついていた。



「失礼します!報告します!只今皇城上空に10体の魔族が現れました。結界の外で、こちらの様子を窺っています!」


「何だって!」


突然入った報告にリーヴァ達は驚きながらも、まずその姿を確認すべく、城の最上部へ向かった。

ナルージアとロシェルもリーヴァに続いた。



城の最上部に出て空を確認すると、確かに結界の外側に、10体の魔族が宙に浮かび、静止していた。


「いるな·····しかし様子がおかしくないか?」


魔族達は既に傷ついているように見える。

あちらもこちらの魔力に気づいたのだろう。

一気にこちらに向かって飛んできた。


それから一旦結界の上部に沿って距離を詰めてきたその直後、魔族数人が結界に攻撃魔法をぶつけ、破壊しようとしてきた。


「無駄な事を····。」


『見ろ。彼奴ら、何でそんなに必死なんだ?』


ナルージア程目は良くないが、現れた魔族達が、我武者羅に魔法を乱れ撃っているのが分かる。


その時だった。


突然魔族はその動きを止め、苦しみ出すと、身体から煙が上がり始めた。


「なっ?!」


するとそれから一気に魔族の身体は炎に包まれ灰と化し、現れた魔族は全て息絶えた。


突然訪れたその光景に、リーヴァ達は目を反らせずにいた。


やがて、隣に立っていたロシェルが膝から崩れ落ちた。


「リーヴァ様·····。」


消え入りそうなロシェルの声に、リーヴァも苦しげな表情に変わった。


『ああ、あの血の契約者が死んだな。』


ナルージアの呟きがその場を凍りつかせる。

なぜならそれは、死に逝くエリオットが、グレイスを道連れにした可能性が高いからだ。


「グレイス、嫌だ·····嫌だ····。」


ロシェルがグレイスの名を呼ぶ。

3人は暫くその場から動けなかった。

ロシェルの泣く声だけが、耳に響く。


どれくらい経ったか、ふとリーヴァは何かに気づき、ナルージアに問いかける。


『ナルージア、グレイスとの血の契約はどうなっている?』

『ああ、繋がってるよ。あれ?俺死なないね。』


グレイスと未だ血の契約で繋がっているナルージアに変化はない。


『どういう事?ナルージアは僕とドイナーと同じように、グレイスから血の契約を解除されたんじゃないの?』

『そうだな。』

『じゃあ、グレイスは·····グレイスはまだ生きているって事?』

『まあ、今の時点では、そういう事になるな。』


ロシェルの目から、再び大粒の涙が溢れる。


『グレイスは死んでない·····。』

『ああ。』

『エリオット様は死んだんだ。グレイスは、グレイスはもう帰って来れるよね。』

『ああ。』

『絶対に見つける。絶対に迎えにいく。』

『そうだな。』


その場にいた3人は、表情を和らげる。

新たに希望を持ったロシェルは、美しく微笑んだ。



それから数日が経ったが、ナルージアのグレイスとの血の契約の紋章が消えることはなかった。




数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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